第7話

 今日はすっごく嬉しいことが起きた。

 なんと、あの永瀬くんが体育館に来てくれたんだ!


 この前は体育館から去っていく永瀬くんの姿を見て、こんなチャンスはもうない! って思って咄嗟に「毎日練習してるんだ!」なんて声をかけてしまった。

 あんまり急ぎ足で離れていくものだから、よかったらまた来て欲しい、って言葉はつなげられなかった。


 だから多分、もう来てくれないんだろうなって思った。

 案の定その翌日と翌々日は来てくれなかった……。

 それが何故かとても悔しくて、このまま諦められない! って闘志がメラメラ燃えてきた。


 そのクセ、面と向かって話しかける勇気は出ないから、なんとかシグナルを永瀬くんに送れないかな~って考えたんだ。

 幸いにもA組にはウリちゃんがいるから、教室に入る口実はある。


 だからウリちゃんに事情を話して、口裏を合わせて貰うことにした。

 ウリちゃんは目をキラキラ輝かせながら「応援するよ!」って言ってたけど……。

 違うんだ。これはじゃないの。


 永瀬くんに体育館に来て欲しいのは、まず一つはもちろん、私がバスケを上手くなりたいから。これは本当に本音だ。

 そしてもう一つは……。

 ううん、ここまで私が考えるのは、おこがましいことかもしれないからやめよう。


 そして昼休み。永瀬くんに、今日も体育館にいるよ~ってシグナルを出した。

 ウリちゃんがニヤニヤしながら見てくるからなんだかすごく恥ずかしかったけど、それは我慢して態度に出さないようにした。


 A組の教室から出るときに、永瀬くんがどんな反応をしてるか気になって振り返ったら、なんと目が合ってしまった!

 すぐに逸らしそうになったけど、なんとか堪えて、その目に自分の思いを込めて少しの間見つめてみた。


 その思いが届いたのか、永瀬くんは体育館に来てくれた。


 その時点で跳び上がりそうなほど嬉しかったけど、なんとその後シュートを褒めてくれたし、挙げ句には自主練に付き合ってくれるって!

 でも、永瀬くんには無理をさせないようにしなきゃ。

 様子を見てる限りだと、きっとまだ……。


 永瀬くんにメッセージを送ったあと、まだ少し興奮冷めやらぬ私は、もう何度見たかわからないお気に入りの動画を見ることにした。主役は一人の少年。時には真剣な、そして時には満面の笑顔でプレーしている。

 今日はまだまだ眠れそうにないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る