第4話 自己紹介(1)
「で、あの子を如何なさるおつもりですか?」
焚き火を囲み、遅めの夕食を取りながら莉己が問う。
「本当に異国の民なのか?見た目はそんなに変わんねえぞ。ちょっと色も白いし、髪も漆黒だけどな」
「言葉が全く通じない。聴いた事のない言葉を話す」
「ふーん。でもさ、演技かもしれないぞ。新手の刺客ってのは考えられないか? 助けてもらったくらいだ。腕もたつんだろ? お前のことを知っていて近づいたとかさ」
肉にかぶり付きながら桃弥が最もな意見を述べた。
莉己と泉李の表情からも彼らの言いたいことが分かる。
「相談もなしに連れてきて悪かったとは思っている。
しかし、刺客や間者の可能性は低いと考えいる」
不安でいっぱいの潤んだ漆黒の瞳。ぎゅうっと自分の裾を握る震える手。あれが演技だとは思えなかった。桜雅は簡易に張った幕の方に視線を向けながら、華奢な身体から伝わる小刻みな震えを思い出していた。
桜雅をよく知る3人は顔を見合わせた。
少し不器用で、ぶっきらぼうな態度を取って誤解を受けることはあるが、彼が実は誰よりも情に厚く、心優しいと知っている。だからといって情に流され軽率な行動を取るとは思えない。
現王の実弟である
「おっと、噂をすればだ」
泉李がむくりと起き上がり、ぼーとしている朱璃に気がついた。
「おいっ、ちびっ子。腹が減っただろう。こっち来いよ」
泉李の呼び声に、朱璃はハッと振り向いた。
焚き火の側に4人の男性がいて、自分を見ている。その内の1人がこちらに近づいて来た。
夕焼けの髪の青年だ……。
夢じゃなかった……。落胆の色を隠せない朱璃であったが、ふと自分に掛けてあった布に、気が付いた。
身体の下にも布が敷いてあり、眠ってしまった自分を放置せず、こうして寝かせてくれたのだと分かった。
その優しさに胸が熱くなり、と同時に心が落ち着いてきた。
「しゅり、白湯だ。飲め」
青年から何やら入った器を受け取り、素直に口をつける。ほんのり温かい湯が身体の隅々まで行き渡り、生き返る様な気がした。
朱璃が白湯を飲み干し、少し落ち着いた様子を見せるのを待って、桜雅は焚き火をの側に来るように促した。
『ありがとう』
大人しく桜雅の側に座った朱璃に、今度は桜雅より少し大人な感じの体格のいい青年が、大きな器を手渡す。
「腹が減っているだろ。先ずは食え食え」
食べろといっているのが分かり 朱璃は頷いた。
『いただきます』
両手を、合わせて祈る様な仕草をする朱璃に4人とも興味津々だ。異国の民だという少年を自然を装い神経を集中させ観察する。
そんな周りの雰囲気には全く気が付かず、朱璃は初めて食べる食べ物に恐る恐る口をつけた。
薄青のお粥?豆?ワカメ?
美味しい……でも……辛い!?
後からビリビリと舌を刺激する辛さに驚く。
その表情を見て、泉李が笑った。
「お子様には少し辛かったか? でも身体が温まって疲れも取れるぞ」
にっこり笑う深緑の短髪青年につられ朱璃も微笑んだ。笑いジワのイケメンだ。
そう思いながら二口目を口に運ぶ。不思議な事に、その辛さが、妙にクセになり気が付くとあっという間に平らげていた。
『すごく美味しかったです。ごちそう様でした』
通じないと分かっていても自然と感謝の言葉が口に出た。
3人が朱璃の言葉に注目する中、桜雅はずっと泣き出しそうだった不安げな表情が消えたことにホッとしていた。
「しゅり、紹介する。俺の仲間だ」
笑いジワのイケメンが器を受けとり頷いた。
「俺は宋泉李だ。せ・ん・り」
名前を教えてくれているのが分かり、頷いて真似をする。
『せんり』
小さい子みたいに頭を撫でられ、少しはずかしくなる。
次に泉李の隣人が艶やかに微笑んだ。
「私は劉莉己です。り・き」
『りき、りき』
真似をしながらその美しさに見とれてしまう。今まで見てきた中で一番美しいといっても過言ではない。なんて綺麗なんだろう。切れ長で二重な瞳と流れる様な曲線を描く髪は同じ薄茶色で、線の細い尖った鼻と、少し薄い唇は一見冷たそうにも見えるが、優しい微笑みを浮かべているので、まさに女神の様に見える。
恩人の桜雅を含め他の2人もかなりイケメンで、この国の顔面偏差値はかなり高いと思われる。その中でも、莉己の美しさは中性的で、というより女性でもこれほど美しい人は見たことがない。
そこまで考え、もしかして女性なのかも……観察してしまった。
そんな朱璃の考えがわかったのか、莉己がふふふっと魅惑的な笑顔をみせた。
「私は男ですよ。生物学的にいうとね」
『オトコ?』
ちょうど朱璃の目の前にいた一番若く見える青年がニカッと笑った。そして、
「お・ん・な」
と言いながら、豊満な胸を表す身振りをし、その後に
「お・と・こ」
と言って胸の前でバツをしてみせた。
彼の言っている事が分かり、自分の考えが読まれている事も理解でき顔が熱くなった。
これだけ美しいのだ。間違えられる事があってもおかしくないが、失礼な振る舞いをしてしまったのでは反省した。
莉己をみると、さきほどと変わらず微笑を浮かべており、不快な思いをしてさせていないことにホッしつつ謝る。
『申し訳ありません。あまりにお美しいので……』
相変わらず全く聞いたことのない言葉を発するが、 焦ったように頭を下げる様子から、謝ってくれているのが分かった。
「気にせずとも良いですよ」
莉己は再び優しく微笑んだ。
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