猫【From:くらげ】

ノスケのことを書く。

ノスケにはじめて会ったのは一昨日のこと。我が家のベランダに落ちた明るい午後の陽だまりのなかにドーナツみたいに丸くなって寝そべっているところを私が気付かずに起こしてしまい、そのおわびにとミルクを差し上げたのが私たちの出会いのきっかけだった。

そして今日、再会。私は彼を部屋に招きいれた。どうぞどうぞ。ノスケはすこし悪そうな後ろ足を引きずりながらも優雅に部屋を見て回った。その姿に私はノスケをノスケとする考えを抱いた 。理由はわからない。けれどもその、まっぷたつに裂かれた名前のような、どことなく舌足らずな感じがしながらもいっぱしの愛嬌のあるところに私はすっかり掴まれてしまった。同時に、お腹の底から彼に対する愛情がはっきり芽生えた。

ノスケはルドンやバスキアの複製を眺めたり、清親やバゼリッツの画集を踏みつけたり、イーゼルにかかる私の絵を素通りしたりしてから、机の上の切り抜かれた陽射しのなかにあくびをして寝転んだ。私は慎重に紙とペンを手繰り寄せ彼の横顔をスケッチした。尻尾が時々揺れて虎色の毛並みのところどころにある白い点々が太陽を反射してきらめいた。

とても凛々しく愛らしいノスケ。彼は昼寝に満足すると彼の背丈の何倍もある柵を飛びこえさっさと出て行った。また会えるといいのだけれど。すべては彼次第。私は待ちぼうけの窓辺にはりつけられた健気な女の子。

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