第7話

山形県天童市で被害者が関わった少年事件の調査を終えた西世田谷署の小山田と窪坂のふたりの刑事は、帰郷していた。

その日、高校を出て天童から東京に出て、今は成功している末吉盛夫の会社に向かっていた。

渋谷から原宿に向かって歩いて6分ほどの場所に末吉の会社が入るビルがあった。

「彼が何か星に結びつけば良いですね」

「捜査は空振ってなんぼだ。期待しすぎるとロクなことはないぞ」

小山田は冷静な口調だった。

小山田の刑事としての勘が、末吉が本星に近いというサインを送っていた。

灰色の10階建てのビルは、それほど大きくはないが、築年数が浅い綺麗なビルだった。

末吉の会社は5階にあった。

営業内容は不動産コンサルタント。

社長をしている末吉は、大手の不動産会社に勤めていたが、独自の理論で賃貸物件の開発を手がけ、多くのデベロッパーと共同でマンションや新興住宅地の開発など手広く手がけ、その実績と、語り口の柔和さと爽やかなルックスでテレビのコメンテーターで出演もしているという。


「ものすごく若いのに大成功ですよね」

「そうだな。持って生まれたものが違うんだろう。俺たちとは無縁の世界さ」


エレベーターを降りると、正面に会社の受付があり、社長に取次いでもらって、応接室に案内された。

しばらくすると末吉が現れた。

身長は180センチくらいある大柄な男だが、顔が小さく、バランスが良い体型で、爽やかな笑顔だった。


「ご苦労さまです。末吉です」

物腰も柔らかく、まったく威圧感はない。それは末吉がまだ25歳ということもあるだろう。

「お若いのに立派ですね」

小山田は尊敬するような眼差しで挨拶した。

「いえいえ、ただ単に運が良いだけですよ」

「高校を卒業してからすぐに東京にいらしたんですよね」

「そうです。はじめは目黒の小さい不動産屋でしたね。そこで不動産のイロハを学び、そこから大手の不動産会社の賃貸専門の店にスカウトされまして、そこを二年で辞めて自分の会社を持ったんです」

「ご結婚はされていますか」

「いえ、まだですよ。ほとんど24時間、365日仕事みたいなものですから」「ところで、天童にいたころ真壁さんという警察官とお知り合いになりましたよね」

小山田がその質問をしたとき、一瞬であるが末吉の表情が曇った。

そのことを小山田は見逃さなかった。

「はい、お恥ずかしい話ですが、若い頃やんちゃをしていまして。それで真壁さんには大変お世話になりました。今、私がこうやっているのは真壁さんのお陰だと本当に感謝しています」

「真壁さんがお亡くなりになったことはご存知でしたか」

「はい、ニュースで知りました。出来ればお葬式にも出たかったのですが、私は世間に顔を知られていますから、かえってご迷惑になると思い、行きませんでした。だから、毎日天童の方向に手を合わせています」

「そうですか、失礼な質問ですが真壁さんが亡くなられた3月14日の夜から翌日の朝まで何をしていらっしゃいましたか。一応、真壁さんになにかしら関係している方に聞いているものですからご容赦願います」

真壁はスマホでスケジュールを確認した。

「その夜は何も書いていないので、仕事が終わってから帰宅して、翌日は訪問する会社にそのまま向かいました」

「そのことを証明する人はおられますか」

「いえ、ひとり暮らしですから」

「どなたか訪ねられた方はいませんか」

「いませんね」

きっぱりと言い切った。


小山田は被害者との関係を詳しく聞き、最後に会ったときの確認などをして会社を後にした。

「小山田さんはどう見ました」

会社のビルを出たところで窪坂が聞いてきた。

「お前には分からなかったか」

「・・・・・」

「ガイシャの話を聞き始めたときに彼の顔に一瞬斜線がはいった」

「分かりませんでした」

「徹底的に奴を洗うぞ」「はい」


小山田たちはすぐに捜査本部に戻り監察官に報告した。


続く。




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