第8話

世田谷区の児童公園で起きた殺人事件は、西世田谷署の小山田刑事たちの捜査でやや光明が見えはじめていた。

過去に少年事件を起こした少年が、高校を卒業するとすぐに、天童市から東京に出て成功している末吉盛夫が怪しいと小山田の刑事の勘が働いたからだ。


捜査本部へ戻った小山田たちは、すぐに監理官にその話をした。

「確かに、アリバイの無いのは怪しい。だが、動機は何なんだ。動機の解明と、証拠だな、証拠」

確かに、監理官の言う通りだった。

だが、そんなことは小山田には分かっていた。

捜査本部に戻るまでにそのことは熟考をしていたのだ。

「これは私の推測ですが、末吉は現在不動産ブローカーとして成功している。テレビや雑誌で取り上げられて、いわば有名人です。ですが、生い立ちが彼の人生に大きな影を落としていると思われます。父親は韓国人、母親は被差別部落の出身者。そのために小さいころからいじめられていた」

「それはそうだが、なぜ殺人事件を起こしたんだ」「あくまで推理ですが、少年事件に熱心だった被害者は、高校を出て東京に行ったきりの末吉のことをずっと気にかけていた。今どうしているんだろう、ちゃんとした真人間として働いているのだろうか。また悪事に手を染めていないだろうか。そんなとき、何らかの手段で末吉が不動産コンサルタントとして成功しているのを知った。父親は末期がんで余命いくばくもない。そこで末吉に直接会って音信不通になっている父親に会いにくるように説得したのではないかと思うのです」

「それは可能性があるな。でもそれなら別に殺しにまで発展するか」

「そこなんですよ。彼は成功して世間に顔を知られる存在になった。だが、彼の生い立ちについては誰も知らない。もし、父親が韓国人で母親が被差別部落の出身だということが世間に知れたら、またいわれの無い中傷を受けるかも知れない。だが、被害者は正義感の強い人だ。もうすぐ死ぬ父親とひと目だけでも会ってくれとしつこく頼まれた。そこで突発的に殺してしまった」

「だが、刺したナイフは用意していたと考えられるぞ」

「多分脅かすだけのつもりだったのではないでしょうか。殺すつもりはなかった。末吉の話では被害者に本当に感謝しているように思いましたから」

「確かに分かるが、物証のひとつもなければ、任意に引っ張っても口を割らないだろ」

「そうです、そこです。問題は」

「末吉は車を持っているのか」

「はい、かなりの車好きで、今乗っているのはイタリア車のマセラッティです。会社の駐車場に停まっているのを確認しナンバーもメモしております」

小山田の相棒の窪坂が誇らしげに監察官に報告した。

「よし、Nシステムの総チェックをかけよう」

監理官は捜査本部に詰めている解析班に命じた。

「うまくNヒットしてくれるといいですね」

窪坂が懇願するような顔つきで呟いた。

「見つかるさ。絶対に」

小山田も力を込めて呟いた。


だが、犯行現場周辺は、環状八号線があり交通量は多かったので、少し時間はかかった。

「Nヒットしました。間違いなく当該車両です」「運転者の顔は分かるか」

「いえ、背後からの画像しかありません」

その車両のナンバーが映っていたのは、事件現場からすぐ近くの環状八号線だった。

車で2,3分の位置だ。

「よし、改めて現場周辺の防犯カメラの映像を再チェックしろ」


いよいよ今回の事件の大きな山の麓にたどり着いたと小山田たちは感じていた。



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