第5話

被害者の地元山形県天童市に捜査のために来ていた小山田刑事たちは、元同僚たちの話と、過去の事件記録などを調べた翌日、小山田が睨んだ少年事件の関係者を訪ねることにした。


午前9時、滞在しているビジネスホテルを出たふたりは、天童署のパトカーで、関係者のところに向かった。一件目は、窃盗の罪で逮捕された少年の家だ。


その家は、天童駅から歩いて15分ほどにある町工場だった。「常島化学工業」という看板がある。


工場は扉が開け放しになっていた。そのなかで、二人の男が作業をしていた。


「常島満さんですか」


若い男のほうが顔を上げた。歳は20歳代後半だ。顔つきは年相応だが、目元に少年の面影が残っている。


「はい、私ですが」

「真壁という警察官をご存知ですね」

「知っています。大変お世話になりました」


もうひとりの男も作業を止めて小山田たちのそばに来た。


「これの父親です。昨日、警察のほうから連絡をもらっていますが、真壁さんがどうかしましたか」

「先月亡くなられたました」


ふたりとも驚いた表情をした。


「東京から刑事さんがみえたということは何か事件だったんですか」

「そうです、殺人事件です」

「真壁さんが殺されたと」

「そうです」


父親は喉から舌が飛び出るような顔をして驚いた。息子は悲しげな顔になった。


「真壁さんはこいつが事件を起こしてから、たびたび訪ねてくれて、いろいろ相談に乗ってくれて、いつも気にかけてくださいました」

「そうですか、ところで先月の12日から13日にかけておふたりは何をされていましたか。これは皆さんに聞いているので気を悪くしないでいただきたいのですが」


ふたりは、それらの日は一日中工場で働いていたと証言し、その間に取引先が来たり、近所の人が遊びに来たりしたということだった。


「あの親子は関係なさそうですね」

相棒の窪坂は次の目的地に向かうパトカーの社内で小山田に聞いた。

「そうだろうな。息子もちゃんと親の仕事を継いでいるし、偉いじゃないか」


ふたりからは参考になるような話は聞けなかった。

次の目的地は、車で20分かかった。

町外れにぽつんと建っている一軒家だった。


小山田たちは、パトカーを降りて家のドアをノックした。



続く。




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