第4話
世田谷の児童公園で起きた殺人事件の捜査は、被害者の怨恨を探る方向と、地取りをさらに範囲を広げ、細かく捜査する方向で行なわれていた。
小山田刑事と相棒の窪坂刑事は、被害者の地元である山形県天童市の警察署を訪ね、当時の同僚たちから話を聞いていた。
一通り話しを聞き終わると、副署長が用意してくれた被害者の在職当時に関わった事件の捜査資料と、派出所勤務時代の日誌、報告書に目を通してしていた。
天童市では凶悪事件は少なく、まして被害者が主に勤務していた各所の派出所や駐在所で扱った重大事件は少なかった。
「ぴんとくるものがありませんね」
「刑事の勘を最大限に働かせろ。怨恨の臭いを嗅げ」
小山田は鋭い目で窪坂を睨みつけた。窪坂は折れかかった心に鞭を打つように書類を注視した。
被害者は特に少年事件にこだわりがあったという。
子供たちの非行にはいつも気を配り、不良たちがたむろす場所にはよくパトロールをしていたという。
小山田は特に少年の絡んだ事件はより注意深く資料を読み込んでいった。
「取り合えず、この二件の関係者に当たろう」
小山田が嗅ぎつけた事件は二件あった。
一件は十二年前、天童市から少し離れた町に住んでいた少年が天童市のスーパーマーケットの駐車場で起こした傷害事件だった。
少年同士の小競り合いのようなものだったが、逮捕された少年は怪我をさせた少年の顔の当たり所が悪く、鼻の骨を折る重傷だった。
少年たちの親同士が知り合いだったことから、示談で終わり、少年はすぐに釈放されたが、その後もその少年は中学校で暴力沙汰を起こしたり、問題行動が止まらなかった。
被害者の真壁振一郎当事巡査長は、少年の家をことあるごとに訪問し、少年の様子を親から聞いたり、下校時には通学路に立って少年を見守るなどをしたということだった。
もうひとつの事件もやはり非行少年のことだった。
その少年は窃盗で逮捕されていた。
窃盗といってもスーパーや本屋で万引きを繰り返すくらいな子供じみた窃盗だったが、その子に対しても真壁巡査長は本人によく説諭したり、非番の日に公園に呼び出して相談に乗ったりしていた。
小山田は、この少年事件へのこだわりが事件の動機に繋がるのではないかと考えた。
「まじはですか。もう十年以上も前のことですからね。そういえば、警察学校には怨恨の線はありませんかね」
「それはまだ分からないけど、俺は直感でこの二件の少年事件にこだわりた気分だ」
「小山田さんの勘は普通のデカじゃあありませんからね。信用しますよ」
もちろん小山田も被害者が二年間教官をしていた警察学校時代にも可能性はあると考えていた。
取り合えず、明日は二件の少年事件の関係者に会わなければならない。
もちろん本人もだ。
まだ、地元にいてくれていればの話だがと心のなかでつぶやいていたのだが・・・。
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