第3話
被害者は真壁振一郎62歳と判明した。
山形県に在住し、元警察官で退職後警察学校の教官をしていたことがある。
東京見物に来て、行方不明になり、他殺死体で発見された。
息子の証言によると、東京で誰かに会うとかそういう話はなかったということで、東京に出てきてからの足取りを調べることから始めることになった。
宿泊していたのは、港区にあるビジネスホテルだった。事件発生5日前に宿泊し、事件当日にチェックアウトしていた。
「つまりガイシャは家に帰るつもりだったということですね」
相棒の窪坂が小山田の顔を覗き込むようにして聞いてきた。
「そうだろうが、すんなり帰るなら何故東京駅に行かないで世田谷くんだりまで来たんだろうかな」
「そうですね、それが謎ですね」
「それを俺らが調べるんだろ」
ホテルを出てからの足取りはまったく分からなかった。
防犯カメラの解析では、ホテルの最寄り駅で被害者は映っていなかった。
そうなると、バス、もしくはタクシー、またはレンタカーということになるが、まずレンタカーは調べると利用した形跡は無かった。
バスは近隣の路線しかないし、防犯カメラもないので可能性は薄いという結論になった。
残るはタクシーだったが、都内のタクシー会社、個人タクシーすべてに照会したが、利用した形跡も無かった。
「この広い東京でこれ以上足取りを追うのは不可能じゃないですか」窪坂はため息をついた。「そうだな、俺たちはガイシャの地元に行って怨恨の臭いを探すのが良さそうだな」
捜査本部を取り仕切っている監理官に地元の捜査を担当させるように懇願すると、「小山田さんなら何か手がかりを当てられそうですね」ということになった。
翌日、東京駅から山形新幹線に乗り、山形市で乗り換えて、被害者の家がある天童市に着いた。まず、所轄の天童警察署に向かった。
「ご苦労さまです」
天童署の刑事課長が挨拶した。50がらみの腰の低い人物だ。
「警視庁からの要請ですので、被害者が在官当時の同僚らを呼んでありますので聞いてください」
「ご手配ありがとうございます」
小山田はふかぶかと頭を下げた。
会議室に行くと、同僚たちが待っていた。
「真壁さんは模範的な警察官でしたね。県警本部表彰を何回ももらうほどです」「本部勤務の経験はなく、もっぱら市街地の派出所勤務でした。特に少年犯罪には力を入れていて、間違いを起こした子供たちの面倒をよく見ていました」
同僚たちは口々に被害者の美点を述べまくる。
「もしこの事件が怨恨なら、その原因を作ったのは地元である可能性が高いのです。真壁さんが恨まれるようなことに心当たりはないですか」
小山田は懇願するように同僚たちに聞いた。
そしてひとりの同僚から有力な情報を得ることが出来たのだ。
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