第22話 この世の支配者3

 ここは僕の部屋。

 布団で僕は寝ている。

「ん・・・んん・・・朝か。」

 僕は目を覚ました。

「寒い!?  布団から出たくない!?」

 僕は布団を頭まで被った。

「起きなさい! 山男!」

 そこに母親の山子が僕の部屋に怒鳴り込んできた。

「あと1分・・・いや、あと5分。」

 僕は布団から出たくなかった。

「山男! 早く起きないと首を引き抜くわよ!」

 母親の山子はカンカンに怒っていた。

「やれるもんならやってみろ!」

 僕は首を引っこ抜くなんてできないと高を括っていた。

「あっそう。でやああああああああー!」

 母親の山子は強硬な姿勢で、寝ている僕の布団をはぎ取った。

「フギャ!?」

 そして母親の山子は僕の首をもぎ取った。

「あ、僕はロボットだったんだ。」

 こうして山男は自分がロボットだったと知るのでした。


 ここは家の食卓。

 僕と母親の山子と父親の山太郎が朝ご飯を食べている。

「山男! 朝寝坊とは情けないぞ! それでも代官家の跡継ぎか!」

 父親の山太郎は亭主関白だった。

「子供が出来なかったから、ロボットの僕を養子にしたくせに。」

 僕は今朝知ったばかりの情報で言い返す。

「なにー!? なぜそれを知っている!?」

 父親の山太郎は息子の山男が真実を知っていることに驚いた。

「いつかはバレることですよ。山男がロボットで良かった。もし人間の養子だったら真実を知ったらグレてヤンキーになっちゃいますよ。」

 母親の山子の言うことは的確であった。

「それにしても僕がロボットならロボットだって言ってくださいよ。今朝まで知らなかったんだから。おかげで自分のことを人間だと思って生きてきてしまったじゃないですか。」

 山男の口からは恨み節が聞こえてくる。

「許せ。山男。これもおまえが人間社会に馴染むためにしたこと。」

「そうよ。今まで誰もあなたをロボットだとは思わなかったでしょ。」

 父親の山太郎と母親の山子は必死に取り繕う。

「うん~ん。今までは怒っていたけど、自分がロボットだと知ると、なんだかどうでもよくなってきた。」

 これが自分のことをロボットと知った山男の素直な感想である。

「あ、時間だ。学校に行かなくっちゃ。行ってきます。」

「いってらっしゃい。気をつけるのよ。」

 僕は席を立ち、家を後にして外に出て行く。

「お父さん、山男は大丈夫かしら。私は心配ですよ。」

「いずれは通る道だ。ロボットでも山男は私たちの息子だ。きっと何があっても乗り越えてくれると信じよう。」

 父親の山太郎と母親の山子は人間か、ロボットかは関係なく、息子の山男のことを心配していた。


 ここは通学路の渋谷のスクランブル交差点。

「そうか。僕はロボットだったのか。」

 僕は信号待ちをしながら物思いに耽る。

「信号ロボット、自動車ロボット、ハチ公ロボット、信号を待っている人型AIロボットと僕は同じなんだ。」

 自分のことを人間だと思っていた時は、ロボットが多くて、人間が少ないと思っていた。今見ている景色は、昨日までと何も変わらない同じ景色なのに、今は違って見えている。

「ロボットの仲間が多くて、人間なんか渋谷にはいないんだ。」

 僕は自分がロボットだと知ると、街には仲間がたくさんいると嬉しくなった。逆に少ししかいない人間のことは気にならなかった。

「山男! 代官山男!」

 信号が青になり進もうとすると僕を呼ぶ声が聞こえた。

「楽子!?」

 手を振りながら笑顔で駆けてくる女子高生がいた。

「おいー! ヤッホー! おはよう! 山男!」

 僕と同じ高校に通う猿野楽子。二人でスクランブル交差点を歩いて渡る。

「今日もロボットが多いね! 本当に人間はいるのかな。」

「そ、そ、そうだね。」

 彼女は人間の女の子で、今日から僕はロボットだった。


つづく。

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