第12話*付録号:落語台本『架け橋』

付録号   

   落語台本『架け橋』   著作者:乙音メイ


 時は、2020年。~勇敢なる噺家さんの場合、2019年。

東京~上野・浅草・新橋・新宿。

屋久島~宮之浦離島開発総合センター・小瀬田・安房・尾之間・長生・永田・志戸子・一湊。他、世界各地のステージ。


お囃子の音。

拍手で出迎える観客。

ねっとりした声(このときだけ、ねっとりした声でも可)の噺家、が舞台の袖から登場。


   *


まくら~(季節の風物詩、ニューストピック、メカブ+納豆+刻んだネギ+本味醂+フンドーキン無添加丸大豆生醤油がいかに美味しいか、また、時間が空いたらカレー本部長さんに伝えるダルカレースープのおいしい作り方など etc.)


本題 ~『架け橋』


 一昔前に屋久島から順次捕まっていった、中国台湾北朝鮮流刑罪人テロカルト集団ですけど、略して「ヤクザ」という隠語まで派生した場所ですね。よ~く考えてみれば、これは、また随分おかしな連中たちでした。

本陣信濃町で、映画で見るようなSP風にイヤーマイクロフォンを装着して、黒っぽいスーツでビシッと決めて、門に近づく人を目つきで威嚇したりなどしていたようですけれど、その元は、今からおよそ70数年前に屋久島に現れた、中国大陸で暴れまわる山賊だった人たちが始めたことでした。


 それらの人たちが中国の港を発ったのは、1946年6月のこと、黄海を唐船で558.1海里、毎時5ノットで南下して、およそ3か月後の9月27日金曜日の早朝、屋久島宮之浦港近くの崖下に現れました。

 スパイひとりを町中に潜入させて、崖の上には見張りを交代でひとりづつ、その他山賊一行は船で一晩夜明かし、翌日9月28日土曜日、夜を待ってみんなで宮之浦に上陸しました。

 夜が明けきらぬ29日日曜日には、宿屋を襲って、根城と、金のなる木を得ました。そのあとは未明からの風嵐で、船の一部が壊れてしまい、自称遭難者になりすまし、次は、いっぱしの宗教家? になりすましました。


   *


 ですが、中国から来た当初はまだ日本語が話せませんでした。それでも連中は、始めは中国人とは知られたくなかったのです。何しろ流刑の身の上の犯罪者で、しかも中国からの密航者ですから。それで考えたのが、土着の宗教の信奉者風。修行中の身のうえ風。この「風」が付くのは、アレンジが多かったからですが。

 

 山賊たちは、道を歩くにも気を使いました。

屋久島島民「向こうの小道を歩いている人、あれは何処の人だったかな? 見かけない人だけれど、まあ、挨拶でもしておこう。ああ、おはよう」

山賊   「(あ、いけね。お頭に言われたのは、合掌しながら念仏だったな)ごにょごにょ、ぶつぶつ……」

屋久島島民「いい天気ですなあ」

山賊   「(冷や汗もんだ)南無南無南無……」

屋久島島民「ご精が出ますね」

山賊   「(おい誰か助けてくれ!)ペンペンペンペン!」

屋久島島民「こんだぁ、太鼓を叩きだしたよ」


 こんなことから山賊たちの間では、歩行中も精進することが進められました。数人の行列で、太鼓をたたいて歩けば、さらに塩梅よくいったということです。


 道ばかりではなく、川での話もあります。

山賊   「今日は、アユを焼いて、それを肴に屋久島のうまい焼酎で酒盛りだ! へへへへ、いやがるいやがる」

屋久島島民「釣れますか~」

山賊   「こりゃいけねえっ、日本人だ。ごにょごにょごにょ……」

屋久島島民「水、冷たいでしょう~?」

山賊   「南無南無、仏々仏々……」

屋久島島民「すぐ上の山から来る水だから、夏でも冷たい、ましてや、まだ一月だしね~」

山賊   「せっかく念仏唱えてんのに、水音で聞こえないんだな。まだ、何か言ってるよ。えいっ、これならどうだ……」

屋久島島民「わあっ! あのお人、滝の下で頭から水を浴びだした! 合掌して。何かの修行かね? すごいねぇ、こりゃ」


 このような具合ですから、話しかけて邪魔しちゃ悪い、一心に修行してらっしゃるのだろうから、そういう人を見たら、そっとしておこう、ということになっていきました。


   *


 まあ、そのようなおかしみのある連中ですが、島に来てすぐの頃は相当な悪で、人殺しも特に多かったのです。そもそも、何で日本に来たかと言うと、賢くていろいろな意味で豊かな人を見ると、放っておけない性分のようなのです。あこがれの人に団体で付いて来ちゃったのです。これが、ストーカーの始まりです。

 当時中国にいた日本人の材木商だった社長さん、この方にあこがれたのです。自分たちも、社長さんと同じ南の島で材木を扱って、真似したかったのですって、そう聞きました。


 それで山賊だったのに、海賊にまでなって、日本に来ました。山で切った木は、川の中に落として運ばれる、だから材木は川岸のどこかにある、ということですから、

「川だ! 島の川を目指すぞ!」

「おお~!」

と、来た。

 ところが、目星をつけた川の少し上流の屋敷を探索中に、お頭が、

「へっ、ぷしょん!」

と、くしゃみをしたばっかりに、厠に出た男に見つかってしまった。

「ついでだやっちまえ」

とやってっしまったのが、材木問屋ではなく宿屋だったのです。

 

   *


 その時からが地獄の始まりです。大変でした、田○館。

 土曜日の船で来ていた、熊本営林署の職員の二人は、田○館の一室で気持ちよく眠っているところを、山賊が入り、午前三時十九分、喉をかき切られて絶命しました。


 次に、山賊は、下男夫婦に手提げ金庫を持って来させ、宿の主人家族三人と、裏の川に連れて行かれました。川には、木橋が架かっていました。周りは、性の悪そうな男女が、六十名ばかり。

 山賊たちは、すでにこと切れている熊本営林署の二人の亡骸を担ぎ上げ、橋の真ん中、川上側の欄干から下に放り投げました。

 

 金庫を開けるよう主人にせまったが、主人は開けることができません。いつも贔屓にしてくれる屋久島森○管理署本署の大切なお客さんを殺されたことが、その時はどうしても許せなかったのです。

 すると、主人の奥さんと子供が、3~4人の山賊に抱えられました。そして、あっという間に、

「キャッ! キャアアア~!!…」

奥さんが川に投げられました(AM4:15)。

「なんてことを! わかった! 開けるから息子を放せ!」

主人が金庫を開けたら、

「ヒャッ! …………………………………」

子供も(AM4:17)、主人も(AM4:19)

「わあ~! …………」

川に放り投げられ、即死でした。

 本当にひどい奴らだったのです。


 宿は根城にしよう、と戻った山賊たち。

 天井にも壁にも染みついた、

「その血を、拭くように」

と、生かしておいた下男夫婦に命じました。

 天井板はまだしも、土壁は、血が染み込んでもうどうにもなりませんでした。応急処置で壁に新聞紙を貼らせました。


 貼っているところを見たのが、屋久島森○管理署本署職員の二人、日曜日に観光がてらあちこちご案内します、と約束していたのですが、未明からの風嵐で、代わりに、つまみや芋焼酎の差し入れを持って訪ねたのです。

「コンコン!」 

「風が強くて聞こえないのだろう」

と、庭に回って、窓から中を見たら、壁に、吹き付けられたような血と、その上に新聞紙を貼っている下男下女、主人の控えの間には、ずらりと座っている男女強面連中。

「ヒャ~~~~……」

一目散に逃げました。

 それ以来、森○管理署本署は、田○館に近づきません。

 熊本営林署の二人を送って来たのに、月曜になっても迎えに来ないことで下男夫婦も、感ずかれたと知ることになります。


   *


 それにしても、屋久島森○管理署本署、勇敢ですね。

 公共の場所や建造物に、堂々、後世の人に向けたヒントを残しました。山や森や、屋久島を愛する人たちの無念を、何とか、晴らしてやりたい! いつか、誰かが気づいてくれるはずだ! 念を込めました。


 当時は屋久島営林署、今は、屋久島森○管理署と言っていますが、正に太っ腹です。

 宮之浦川で事件のあった2年後、古くなっていた宮之浦川の橋を、うちの予算で建て替えましょう、と、港に近いほうから、まず一本目の橋が完成しました。

 命名は「唐船橋!」

「中国の難破船遭難者との日中友好?」

と思いきや、

「ここから先の川上へは行かないほうがいい!」

「通せんぼ」危ないです。

「居ます。物騒な、中国から来た海賊か何かが!」

そういう暗喩もあったのでしょう。


 次にもう一本、「唐船橋」の川上の橋も作りました。

 こちらが真に作りたかった橋でした。そして、たいそう立派な石橋が9月29日に完成し、島に寄贈されました。


 で、この橋は、鹿児島県の屋久島森○管理署本署が架けた橋なのですが、橋のたもとには、

「熊本営林!」

と、刻まれています。これが、謎架け、の始まりです。

 橋が完成した9月29日は、2年前に亡くなった熊本営林署職員の二人の命日でした。1948年9月29日、世界一大きなお墓が完成したのです! 橋の除幕式のテープカットは、遺族である二人の奥さんたちが行いました。

 それ以来、屋久島森○管理署は、山賊たち、その後のカルト団一味にとって、

「目の上の瘤」

に認定されました。


   *


 ところで、主夫婦は流行病で死んだことにして、病にかからなかった主の息子を引き取りましたということにして、実は山賊の男の子を育てあげるよう言われた下男夫婦でした。


 この辺りのことを映画に残そうと奮闘したのが、平成元年1月封切の、伊丹十三製作総指揮、黒沢清監督脚本のホラー映画「スウィートホーム」。

 映画には、ガソリンスタンドの主が出てきます。この方は主人公たちを助けて自分は亡くなってしまうという役どころです。

 モデルになった実在するスタンドのご主人さんも「田○館」で殺されてしまいました。映画にある「フレスコ画」の復元の件、これは、屋久島営林署職員が見た血痕のことを指しています。

 現実に、逃げて帰る道すがらの職員二人から聞いたスタンドのご主人さんも、まさかと思う気持ちで、二度に亘って「田○館」に行ってみたのです。「田○館」は、1本道の先のご近所だし、お得意さんでもありますから。

 行ってみました。そうしたら、主人夫婦も息子も姿がなく、代わりに見たこともない男の子と、その子に日本語を教えている下男下女。

 翌日、そろそろ学校へ行く時分だし、今度はいるだろうと、スタンドのご主人さんがまた見に行ったところ、やはり主人夫婦も息子もいない、朝日を受けて明るい日差しの射す部屋を、そっと覗いてみたら、壁には新聞紙、天井には血のシミの塊が! そこへ、

「見~た~な~」

「あわわ……」

となって、殺されてしまいました。1921年10月1日火曜日午前8時47分、山賊二人に、焼却炉に押し込まれ、焼死。


「やだね~」


   *


 数年たってから、新しい宿を、少し川下の屋久島森○管理署本署が架けた橋「唐船橋」のたもとに建てました。

 で~~んと、建てられ、その名前が、

「田○旅館別館」

「別館」が付くのです。

「まっさら、出来たて、以前のあれとは別であります。ここは違う建物です」

という気持ちがめちゃくちゃ入っています。

 元の「田○館」ですが、これは、屋久島森○管理署に張り合ったのか、跡地ごと屋久島に寄贈されました。

「あてつけがましいあんな橋のある土地なんて、くれてやらあ。代わりにもう一つの橋は預かるぞ! ここは上座だ、左岸もいずれ手籠めにしてやる」

「唐船橋」のたもとに、「田○旅館別館」を建てたのは、山賊カルト集団一味の、屋久島森○管理署への宣戦布告だったのでしょう。自分の物でもない土地を、まあこのような具合に、好き勝手に右から左へ……。これが、土地ころがしの始まり。

 

 この後何十年も後に、山賊カルト団一味は、森林保全と生息する森の仲間、島民や、観光の登山者が怪我をしないように整備するための協力金制度を、山賊カルト一味が抱き込んだ企業と、結託した組織を作って価値創出にかこつけ、森林管理署の業務に口を挟み、森の仲間を猟銃で殺したり、協力金制度を乗っ取って寄付金自体も着服しました。

 やつら、世界中の屋久島の山々を愛する人のお金から、パチンコ代どころか、本陣への献金代と仲間一味の覚せい剤代、準兵器代、鉄砲遊びの猟銃代、接待代に回されました。すごいですね。

 

   *


 それから、みなさん、すでにご存じのように、林芙美子が書いた『浮雲』の、最終話に描写されている、凄惨な部屋のシーン、これは森○管理署本署の職員二人が見た、田○館の客室だったのです。

 職員の二人は、林芙美子さんを味方と思って相談し、日本への警鐘となる作品執筆を依頼し、それで書かれたのが『浮雲』だったのです。ですから手書き原稿の続きが発見されたのです。あの有名なS社という出版社の倉庫から。


 さあ大変!

『浮雲』の中に、自分たちの仕業が描かれていることを知った山賊カルト団一味は、すでにねんごろになっている下男夫婦を刺客として送りました。

 林芙美子は東京で、前日赤坂の料亭で下女の女房が料理に盛った毒によって翌日早朝、都内の病院で、1951年6月28日水曜日午前3:33、砒素による毒死。


 屋久島森○管理署本署の職員二人は、

「何もかも白状する」

と下男に呼び出され、熊本営林署の二人が投げ込まれた同じ橋の川下側欄干そばに立っているところを、藪から出てきた山賊たちに持ち上げられて川に落とされ、1951年6月22日金曜日午後4時46分、即死。


 翌日、遺体が流れ着いた先が、

「田代海岸」

屋久島森○管理署本署の職員二人は、死んだ後も頑張りました。太平洋の外海には出ずに、屋久島の東の、

「田代海岸」

に翌日流れ着きました。ほんとうに、最後の最後まで頑張った勇敢な人たちでした。

 


 それにしても、近所に住む犯人たち、どんな気持ちで屋久島森○管理署が架けた橋を渡っていたのでしょうね。

 屋久島森○管理署本署が架けた架け橋は、時間空間、世代や立場や国を超えて、連綿と温かい心を持った人々の手と手をつないでいくことでしょう。ありがとうございます。


 後世に教訓が残りました。

「危ない橋を渡る、は、割に合わない」

 お後がよろしいようで……。




(お囃子の音) 





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