第8話 「ガリガリ、ゾリゾリ」
第8話
「ガリガリ、ゾリゾリ」 乙音メイ
「ガリガリ、ゾリゾリ」という音のことを、いろいろな言葉をつけて検索してみた。東隣E‐3棟303号室からこの音が聞こえてくる度に怖気を誘うようなこの音が気になり、ひと月かけて、時々調べていた。
6月半ばになって、やっと雰囲気の近いものがヒットした。袈裟を着たお坊さんの歩く姿を後ろから写したモノクロ写真が表紙になっていて、薄いが、体裁の整ったサイトだった。
そこには、こんなことが書かれていた。
【日本のHという、名前を聞けばだれでもわかる有名なH島に行った。
「ガリガリ、ゾリゾリ」という音の出る楽器を打ち鳴らしながら、何かの宗教信者たちが念仏を唱えながら、島を練り歩いていた。
「ガリガリ、ゾリゾリ」
と。
そこで、通りがかりの島の人に尋ねてみたら、朝な夕なに信者たちがこうして練り歩いているのだという。
島生まれの元からいた島の人は、勧誘されて仕方なく信者になったり、勧誘がしつこくて島を出ていく者も後を絶たず、とうとうH島はこの信者たちばかりになってしまったという。
旅人は、話してくれた人にお礼を言った。その方は民宿があるので、仕方なく島に残っているという。
ため息交じりに
「今日も勧誘が来るのかなあ」
とつぶやきつつ去って行った。】
このような内容だった。これは、プロパガンダか、それとも、流されないよう頑張ろう、というものなのか?
後に、これを書いたのは、E‐3棟402号室の、今はいなくなってしまった夫だった人かもしれない、と思うようになった。自分の心の整理が出来つつあったのかもしれない。視野の広さを感じる。
H島は法○島を表しているのかもしれない。ため息交じりに話してくれた方は実在していて、これを書いた人はその方を、どうしようもなく知っているのだ。
最後になってしまったが、「ガリガリ、ゾリゾリ」という音は炭化させた砒素化合物の塊を、ダイヤモンド鋸(「鋸」という単語は屋○島警察の警官が教えてくれた)で削る音である。わざわざ、我が家用に、お隣の方がベランダで削っているのだが、当方、辞退する。
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