第7話 なんちゃって警官H

第7話

   なんちゃって警官H   乙音メイ


 一度、Hという警官が来たことがある。電話がハウリングしたり、FAX付の電話機の子機を使用すると、雑音が生じる時期があった。それは、マイクロ波、ガス、砒素入り粉末散布、これらの犯行が目白押しでひどかった夏の時期だ。食事を作ろうと、コンロやオーブンを使用するとフロンガスが送り付けられ、一挙に酸素が消失してくる。息苦しさに加え、素肌、これは、フロンガスも下から先に貯まるらしく膝下の素肌がシュワシュワ~、ザワザワ~と感じる。身体は皮膚呼吸もしているので、肌に含まれている酸素がフロンガスによって協力に吸い取られているのだと思う(もし床に寝ているときだったらと思うと恐ろしい!)。

 フロンガス噴霧最中に警察に通報をした。少し横柄なところのある婦警さんが応対に出て、こちらが恵比須団地と言ったのに、場所を知らないことに不信感も湧いたが、警察官を向かわせるというので、そのまま会話を続けた。受話器に雑音などもあり、気になったが、ともかく、上に住む殺人鬼のような人物がよこすフロンガスが止まればと思い、そのまま助けを呼んだのだった。


 「ピンポ~ン!」

ドアスコープで相手を確認! 制服着用!(あれ? 交通巡査の制服?)と思いつつ、他所の人が来れば犯行が止むと思いドアを開けた。

「屋久島警察のハル○○です。どんな感じですか?」

と、ふっくらした体形に愛嬌のある、何故か笑顔のその制服警官に安堵して、キッチンに案内した。

意外なことにその時、

「えっ、上がっていいんですか?」

と聞き直すので、腰の低い警官だな、と少し思った。そして、キッチンに入るなり、

「あれ、冷蔵庫、こっちに移動したんですね」

と言うのだ。

「あら? 以前の冷蔵庫の位置を何故知っているの?」

と、私は思い、ハッ! とした。 

 最近、マイクロ波が前のE-2棟304号室から来るため、引越し当日から同じ位置にあった冷蔵庫を、移動させたばかりだった。冷蔵庫を盾とし、少しでもマイクロ波の照射範囲を狭め逃れたい一心から、急遽、火事場の馬鹿力が発動され、細腕の私が短時間で移動させたのだ。

「この人は引っ越しの荷物を依頼した○○○便の方!」

と、改めてまじまじと、隣に立つ警察の制服を着た方の顔を見つめた。どうも同じ顔のようだ。私は、判ってしまったことを悟られないように、平静を装って相手をした。ともかくこの方は、警察官としてここにいるのだから警察に電話したたくさんの理由の内のいくつかを説明しておけば、下手なことはしないだろうと思った。そこで、部屋の天井の「レーザー焼け」と対応するかのように付いている真下のカーペットのレーザーの跡も見てもらった。

「あ~そうなんですね~」

と、反応の薄いなんちゃって警官Hだったが、壁に貼ってある「FF13」のポスターには飛びついた。

「ゲームやるんですか?」

「いえ、これは、私が、主人公のライトニングを見ると元気が出るので、ポスターだけ息子が貸してくれたのです。このように色々な被害があるので」

「へ~そうですか、僕もFFやりますよ「13」ではないけれど」

と屈託なく嬉しそうに話している。


 ミシェルより年上だとは思うけれど、犯罪の片棒をかつぎ、茶番劇団員に応じるところは稚拙だ、と感じた。制服は、島のユニフォーム縫製所に特注でもしたのだろうか。警官の同級生か親戚でもいて、お古をもらったのだろうか? 警察官のユニフォームだけを考えても立派な犯罪だ。しかも、屋久島警察の者と名乗って、詐欺を働いている。そんななんちゃって警官まで横行している屋久島の現状に憂いを感じる。屋久島が犯罪者たちに好きなようにされたままでいれば、いずれ全島は乗っ取られるのではないのか。竹島でもいろいろあるように。


 その2か月後、屋久島○役のトラックの運転席から、偽警官Hさんが、青と白の横じまの半袖Tシャツ姿で降りているところを目撃した。

「やはりこっちが本業ね」

腑に落ちた。


 屋久島は映画館もないし、店に並んでいる女性下着もベージュ色の生真面目過ぎる大きめの物ばかりだ。島民は、一部の勢力によって引け目を感じさせられたりして、密かな華やかな装いや、楽しいことは封じられてでもいるのだろうか。犯人グループもまた、楽しい趣味に打ち込むことが稀で、せっせと犯行を続けて他にやることがないのかと思う。




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