去っていった後も根っこで支えられている長年の親友の話
僕の今までの人生で一番の親友は、高校時代に精神科の閉鎖病棟へ入院していたことがあります。その上、そこから脱走してパトカーに囲まれ、さらに自殺を試みたため強制的に取り押さえられ、拘束されたらしいです。
彼は僕と同じ高校に通っていて、日々リストカットを繰り返していました。それも皮膚の表面を切るだけでなく、血が勢いよく噴き出すほどの深いリストカットです。
その行動の原因を僕の立場から断ずることは出来ませんが、大きな一つの要因は彼の親がとんでもない毒親だったことでしょう。
今は何冊もの毒親本が出版されています。スーザン・フォワード「毒になる親」、ダン・ニューハース「不幸にする親」、コミックエッセイの原わた「ゆがみちゃん」など。僕も読みました。そして、彼の親はこれらの書籍で語られている典型的な人間だったのです。
(ちなみに僕の親も、65項目中22項目以上に該当したら毒親育ちという判定になるチェックテストで、倍以上の53項目に該当するような毒親でした。そのせいか、彼とは他の友人と違う奇妙な連帯感を覚えることもありました)
ある日、彼の深いリストカットが保健室の先生に見つかって、紆余曲折の末、彼は精神科の閉鎖病棟へと行くことになりました。
彼は人生や人間の理性に対する執念深いほどの真摯さと集中力を持っていて、いつも深く考え込んでいました。そして怒っていました。何に怒っているのかと問うと、「神に対して怒っている」と返ってきました。
そんな彼は自らの考えから、病院での投薬や治療を拒否しました。薬は医師により呑み込んだことを口を開いて確認されるので、舌の裏に隠して呑み込まず、後にトイレに吐いていたらしいです。
しかし無事退院し、その後の彼は持ち前の爆発的なエネルギーで様々なことに挑戦していました。遊びも趣味も勉強も超真剣といった様子です。その中でも特に、大学~大学院で哲学を学んで研究することに心血を注いでいました。
二人が大学へと進学したあとも、僕らはたくさんの事柄について深く語り合いました。僕が関心のあるテーマについて真剣に話して相手が出来るのは彼以外には居ませんでした。周囲から「考えすぎだよ」「楽しければいいじゃん」と言われる度にがっかりしていました。
遊ぶ友達は他にも居たけど、僕はお酒を飲んで大勢で騒ぐのが本当はあまり好きではなかったのだと思います。いっしょにゲームで遊ぶ仲間や創作関連の人とは今も仲良くしているけれど、飲み会で行われるような中身のない話をしていた人とは大学を卒業したら疎遠になっていった。
当時は大学生らしい遊びに必死で精を出していたし、スケジュールに大きな空白が生まれて独りになることをどこかで恐れてもいた。つまり自分で自分を認めることが出来ていなかった。だから代わりのものでその穴を埋めようとしていた。しかし大学生らしい遊びをいくら繰り返したところで、僕の心は満たされることはなかった。むしろ孤独を強めていった。その気持ちが癒されるのは、彼と話している時間だった。
高校時代から約10年経った今、彼と僕は一言では語れない複雑な事情により、離れ離れになりました(この話までたどり着くにはもう少し時間がかかりそう。いくつかの自分の話を先に語る必要がありそうです)。だとしても彼との豊かな交流は僕のこころに深い根を下ろしていて、いつも支えになってくれています。
とはいっても、彼は彼でいつも忙しそうにしている人間だったし、昔は寂しい思いをすることもよくありました。喧嘩することもありました。ただ単にずっと仲良しだったわけじゃないし、僕はそれ以外の諸々の事情によりだいたい病んでいました。しかし表面的にはおおむね気丈に振る舞っていました。彼以外には本音を語ることがなかなかできなかったのです。その場に応じた適切な振る舞いを演じてしまう。心の中はつらくとも口では面白いことを言って、場を盛り上げようとしてしまう。本当の自分は誰よりも空虚だと思っていたから。孤独と劣等感の嵐が吹き荒れていたから。
いま現在は割と元気にやってますし、自分という存在も認められるようになってきたし、自信もスキルもついてきましたけどね。こんな僕ももう、アラサーといういい年の大人です。信じがたいことに。ここまでの過程の具体的な話も近いうちにしたいなぁ。
何度か彼とのことを咀嚼し再構成して短編小説という形にもしました。
ここへも投稿した小説の「ベスト・フレンド・エンド」は主人公も親友も女性ですが、そのエッセンスはいくらか反映されている気がしますね。
他にも「白木屋のフリースタイル・ダンジョン」に登場する、滝本という人物は彼がモデルになっています。良かったら読んでみてね。
ではまた次回。ご清聴ありがとうございました。
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