19話 帰還
「クソッ!離せ!」
「ちょっ!暴れるなって」
死闘の末、ハルトはノーリスの力を借りてイェラに勝った。そして、そのイェラは現在、ハルトの手によって拘束されている。両手両足をロープで縛り付け、胴体にロープを括り付け、そのロープを引っ張って運んでいる最中だ。
目的地はハルト達の住む国であるマキリス
ハルトとノーリスは魔獣との遭遇を避ける為、最低限の周囲への警戒はしているが、1番の危機であったイェラを倒し、捕縛しているため、それほど緊張はしていなかった。
「このオレを縛り付けるとは!お前ら覚えておけよ!必ず!必ずお前らを殺してやる!」
しかし、拘束されているはずのイェラがしつこく暴れ回るので大変ではあるが。
「眠らせる魔術って使えるか?」
「無理だね。材料がないよ」
イェラは現在拘束中だ。更に、例の爆発の魔術に使う燐は全て燃え尽き、念の為、他の魔術の道具も取り上げておいた。イェラが拘束を抜け襲ってくる心配はほぼないだろう。だから、ハルトとノーリスには余裕があった。
「お前は今から国に連れて帰る。そして牢に入れてもらう。それがお前の末路だ」
ハルトはイェラに言い聞かせる様に話す。
「何で俺を襲ったのかとか、お前の過去とか、そういうのは国に聞いてもらえ。俺は毛ほども興味がないよ」
イェラはハルトの事が憎かった。憎くて憎くてしょうがなかった。そんな悪意を向けられて悪意を返さないでいるほど、ハルトは大人ではない。ハルトはイェラに一切の興味がない。その態度こそが、イェラに対する罰だと、ハルトは考えたのだ。
「ふざけるな……ふざけるな!お前が!お前なんかが魔王になって!オレが!オレがなるはずだったのに!」
イェラはハルトの思惑通り怒り狂う。ハルトはそんなイェラを無視する。こういう人間には無視が一番効く。
「……流石」
苦笑しつつノーリスは呟く。
そうこうしてる内に、建物が見えてきた。国に近付いている証拠だ。
「もうすぐか……」
ハルトとノーリスはホッと溜息を吐く。ここまで魔獣などに襲われる事なく安全に来る事ができた。あと一息だ。そう思うと、ドッと疲れが出て来た。
しかし、あと少しだ。そう言い聞かせてハルト達は歩を進める。
「やっと……着いた……」
「なんだか、すごく久しぶりに感じるよ」
やっと辿り着いた。2人は国の境界の前でへたり込んだ。もう一歩も動けないという感じだ。
暴れるイェラを連れて帰るのも疲れたのだろうが、2人の間には、今日だけで色々な事があった。反発し合って、助け合って、共闘し合って。2人は今日一日だけで十分仲を深められただろう。
へたり込んだ2人は微笑み合う。もう、2人は信じ合えていた。
「やっと……見つけた!」
唐突に、疲れが感じ取れる大きな声が聞こえた。声の主はハルト達に近付いてくる。その声の主はマナだった。
「よかった無事で!」
マナはハルトの肩を掴む。
「心配したのよ!」
「ご、ごめん。色々あって……」
マナの勢いにハルトは思わずたじろぐ。
マナはノーリスの方を向く。その瞳には怒りが込められていた。
「貴方ね……ハルトをこんなにボロボロにしたのは」
「え?」
正確に言えば、ハルトがボロボロになっているのは険しいあぜ道を歩いて来たからだ。最初にイェラから受けた傷は時間の巻き戻しによって回復しているし、その後の戦いではハルトは攻撃をほとんど受けていない。
しかし、マナはノーリスがハルトの親友であることを知らない。その為、マナにはノーリスは敵に見えたのだ。
「喰らいなさい!」
「え?え?」
「ちょっ!ストップ!スト〜ップ!」
誤解が解けたのは、マナの魔術がノーリスに2、3発ほどヒットした後だった。
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