幕間 協力




「チッ……!」


イェラは思わず舌打ちした。彼は今までにないほどにイラついていた。


出鱈目デタラメな力め……!」


イェラはこれまでにないほどの理不尽を感じていた。


イェラは先程まで、崩れる足場を踏み台に上に駆け上がり、自分目掛けて落ちてくる岩は爆発で吹き飛ばし、無事に岩の流星群を脱出したはずだった。


実際、イェラは先程までは崩れた無数の岩の上に鎮座し、余裕をかましていた。


それが、いつの間にか地面が元に戻っていた。


イェラはすぐに、それが憎き魔王の力であると理解した。


「雑魚のくせに……!」


今までにないほどの屈辱と怒りが、イェラを駆り立てていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





場所は変わって。同じく警戒区域の、足場が崩れたはずの場所の、イェラとは離れた所。


ハルトとノーリスは、空を見上げて黄昏たそがれていた。


「それで……僕をどうするんだい?」


ノーリスはハルトに尋ねる。


ノーリスはハルトを警戒区域まで誘い込み、イェラに殺させようとしていた(ノーリス個人は痛めつける程度のつもりだった)。


ノーリスはこう考えている。自分はハルトを罠にかけ、酷いことをしたのだから、自分の処遇はハルトが決めるべきだと。


まるで心を洗われたかの様に清々しい表情を浮かべるノーリスの額を、ハルトが小突く。


「いたっ」

「これでおあいこだ」


ハルトの言葉に、ノーリスは呆然とする。


「いいのかい? 僕を許して」


ハルトはそんなノーリスの言葉を笑い飛ばす。


「いいも何も、こんなのはただの喧嘩だ」


お互いにすれ違って、傷付けあって、思いをぶつけ合って。そんな、誰でも当たり前の様にやって、けれども、上手くいかないこと。ハルトとノーリスは、友達になって初めての喧嘩をした。


「だったら、あとやる事は仲直りだけだろ」


ハルトのその言葉は本心だった。しかし、それ以上に、ハルトはノーリスと親友でいたかった。2人で笑い合えたらと、心の底から望んでいた。


「ノーリスは、仲直り、したくないか?」


ハルトはノーリスに手を差し出す。


「……全く、君は凄い男だよ」


ノーリスはハルトの手を取った。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「しかし、この後はどうするんだい?」


ノーリスがハルトに尋ねる。


「イェラ=ヴェアルノフ。 あいつは僕の様に仲直りして終わり、なんて通じる相手じゃないよ?」

「……わかってる」


ハルトは思い出す。イェラに何度も蹴られ踏まれ、傷付けられたことを。


イェラの攻撃は圧倒的な殺意が込められていた。


それほどまでに、イェラにとってハルトは許しがたい存在なのだ。


「できれば真っ向勝負は避けたい」


イェラの攻撃は無詠唱魔術故にモーションがほぼなく、攻撃の出所を見極めるのも難しい。そんな攻撃を持つ相手と真っ向勝負を挑むのは分が悪い。しかし、だからといって、イェラをかわして国に戻り、安全を確保するというのは難しいことの様に感じる。


「せめて、瞬間移動でもできればいいんだけどな……」


ノーリスが呟く。


「瞬間移動?」


ハルトが気付く。


「そうか!瞬間移動だ!」


ハルトの極魔術きわみまじゅつ、『無限の幻影スキルオーバー』はありとあらゆる魔術を発動させる魔術だ。それを使えば、瞬間移動を再現することも可能かもしれない。


「そんなこと、できるのかい?」


ノーリスが期待を込めた眼差しでハルトを見詰める。


「とりあえずやってみる」


ハルトは自分の内側に意識を集中させる。自分達が連合国に一瞬で辿り着くイメージをする。そしてーーーー。


「……どうやるんだ?」


ズコッ!


ノーリスがける。


「さっきは魔術を成功させてたじゃないか!」

「いや、さっきは夢中だったから。 どうやったのか覚えてない」


ハルトは試しに『無限の幻影スキルオーバー』を発動させるが、何も起きない。いつも通りの魔術に戻ってしまった様だ。


「『無限の幻影スキルオーバー』に頼れないとなると……真っ向から戦うしかないか」


ハルトは途端に恐怖を感じる。冷たい何かが、背中を駆ける様な感覚を覚える。


イェラ。ハルトに殺意を向ける人間。その殺意が、ハルトに不気味さと恐怖を与える。


下手をすれば、自分は殺される。


自然と、額から汗がこぼれ落ちる。



ふと、右手に温かさを感じる。


見ると、ノーリスがハルトの右手を握っている。


「今は1人じゃない。2人で乗り越えるんだ」


ノーリスはハルトに微笑みかける。


ハルトは、自然と恐怖が引いていくのを感じた。


「そうだな……。 ここが、正念場だ」


ハルトは体にグッと力を込めて覚悟を決めた。




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