17話 魔王の力
そこは真っ白な空間。
目が見えないわけでも耳が聞こえないわけでもないのに、何も見えないし何も聞こえない。自分以外の何も存在しない、虚無の世界。
いや、正確には、何も知覚できないわけではない。
何も見えないし何も聞こえないし何も匂わないのに、ハルトは確かに何かを感じた。
そこには、見えないだけで、確かにいる。
正確な数はわからない。しかし、40以上の人間が、確かにそこに存在する。
ハルトには何故かそれがわかった。
「ここは……どこだ?」
ハルトは初めてその疑問を口にした。
自分の声は聞こえる。自分の手や体は見える。自分のことは触れる。
それでようやく、ハルトは自分のいる場所が『確かにあるのだ』と自覚する。
確かに存在する謎の空間。何もない場所。
真っ白な空間という言葉に、ハルトは何かを思い出しそうだった。
(真っ白な空間……それは確か……)
そう、それは、魔王が扉を開けて入る場所。
扉の向こう側を、ハルトはもう一度見ているのだ。
ハルトは改めて周りを見渡すが、辺りに人がいる様子はない。感じる人の気配も、遠くにあるように感じる。
40以上ある人の気配は、全て同じ方向に向かっている。
この人の気配が本当なら、魔王は全てで40以上存在することになる。しかし、連合国に存在する魔王は全部で7人。更に、その7人が近くにいる様な感じはしない。
「ここは、精神的な場所なのか……」
ハルトの直感がそう告げていた。
40人は、この空間で物理的に離れているわけではない。40人は、物理的に同じ方向に向かっているわけではない。
魔王は全員、同じ何かに向かって進んでいる。
その、魔王の向かってる先。そこに、一際目立つ存在がいる。姿形は見えないけれど、確かにそれをはっきり感じ取ることができる。
その、大きな存在の姿が目の前に現れた。
「⁉︎」
正確には目の前に現れたわけではない。相手が、遠くにいながらその姿をハルトに見せたのだ。
ピンク色の髪が長い、年端もいかない少女。
少女は呟く。
「他に比べて、
少女はマジマジとハルトを見詰める。
「まぁ、本来ならもっと早く扉を開けるはずだったんだから、当然といえば当然ね」
少女は満足そうにハルトを見詰める。
「
少女は、意味深な言葉を吐き、ハルトに微笑みかけた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そこは、警戒区域。足場が崩れ、岩と共にハルト達が飲み込まれた場所。
「凄まじいな……」
ノーリスは思わず呟いた。その呟きは、驚きの末に漏れた、という風だった。
「俺もまさか、こんなことになるとは思わなかった……」
ハルトも、周りを見渡して驚きを口にする。
辺り一帯は、地面が一切崩れてなかった。更に、ノーリスも一切の怪我を負っていなかった。
ハルトは、周囲全体に『
その効果は対象の状態のみを時間的に巻き戻すこと。
それによって状態が戻った周囲一帯は、何事もなかったかの様に元に戻ったのだ。
「これが魔王の力か……。僕は凄い親友を持ったみたいだな」
ノーリスは溜息を吐く様に呟いた。
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