12話 ノーリス=リクウォット




 ノーリス=リクウォット。


 彼の家であるリクウォット家は、連合国の中でもそこそこの魔術の名家である。


 ノーリスの父も、祖父も、それより以前の祖先達も、連合国で魔術の研究成果を出している。


「リクウォットの名を持つ以上、その名に恥じない行いを心掛けろ」


 それが、ノーリスが父からいつもかけられる言葉だった。


 ノーリスは幸運にも優秀だった。


 新魔性が高く、魔術も上手に扱うことができた。


 どんな魔術も、努力をするまでもなく扱えた。


 だからだろうか。

 周りからは褒められ期待され、優秀だと賛美の言葉をもらった。


 だからノーリスは自分が特別な存在の様に感じていた。


 そんな彼が初めてハルトと会ったのは10歳の時だ。


「おい、見ろよアレ」


 学院の生徒の何人かが、本人に聞こえる様な大きな声で話していた。


 だから、ノーリスの耳にもその声は届いた。


「例のビビリ君だぜ。 1人で飯食ってやがる」

「おいおい、言ってやるなって……。 ビビリ君は落ちこぼれだから、友達が1人も出来ないんだぜ」

「うわっ。 可哀想」

「「「ハハハハハ」」」


 ノーリスには正直、何が面白いのか理解出来なかった。


 他人を貶める時間があるなら、自分の研鑽に努めるか、もっと己の成長に繋がる話をすれば良い。


 落ちこぼれのことなんて、いい意味でも悪い意味でも放っておけば良い。


 構ってやるだけ時間の無駄だ。


 なのに、わざわざ馬鹿にする様な行為は、ノーリスには正直意味がわからなかった。


 だから最初、ノーリスはハルトに一切興味を示さなかった。


 ノーリスの興味を買ったのは、そのハルトの動きだ。


 ノーリスはやがて気付く。


 ハルトは、意味もなく、何もないところで避ける動作をしたり、立ち止まったり、後ずさりしたりをよくする。


 そこでノーリスは、やっとハルトの噂に興味を持った。


“魔素が見えると吹聴し、魔術を怖がるビビリ”。


「何をしているの?」


 ノーリスがハルトに声を掛けたのは、ハルトが遠くに向けて石を投げている時だった。


「……」


 ハルトは怯えた様子でノーリスの方を見る。


「……この辺は、石が好きなやつが多いから」


 ハルトはボソボソと呟く。


「石が好き……?」


 ノーリスは何のことを言ってるのか分からず、困惑する。


 しかし、1つわかったことがある。


「確かに、この辺りは建物や道路で、石が沢山使われているな……」


 ハルトの言う“何か”は、石を好んでいるから人の住む地域に多く生息しているらしい。


 だからハルトは、自分に“何か”を近寄らせない為に、好物である石を遠くに投げたのだ。


「……そういえば、光を生む魔術も、石を使う場合が多いな」


 そう、街灯に使われる燃料を必要としない炎も、石を使った魔術回路を使用している。


 それから、ノーリスはハルトに聞きながら色々と試した。


 どんな石に最もハルトの言う“魔素”が反応するのか。


 形、大きさ、材質。


 そしてノーリスは最も魔素が反応する発光の魔術の魔術回路を完成させ、街灯の改良に貢献した。


 この頃から、ノーリスはハルトと共にいることが多くなった。


 ハルトの目は、ノーリスの手柄に大きく貢献する。


 それよりも何よりも、ノーリスは楽しかったのだ。

 ハルトの話を聞くことが。


 ハルトが話してくれる魔素の話は、ノーリスの興味を著しく引いた。


 ノーリスは、ハルトともっと話したいと思っていた。


 それが、手柄を優先する様になったのは、父や友人達の目が原因だろうか。


 いつしか、ノーリスはハルトと魔素の話をしなくなった。




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