11話 練習その2



ハルトは先の授業で2つのことがわかった。


・『魔術の先行権』について、魔術回路の完成、つまり、魔術が完全に発動するまでは、他の魔術が割り込む隙があるということ。


ハルトは今までの経験上から、魔素が寄って来る時が魔術発動のタイミングだと思っていた。


しかし、形質変化の授業で、魔素は魔術回路が完成する前から寄って来る事がわかった。


そして、どれだけ魔素が寄って来ようと、魔術回路と反応していなければ、まだ別の魔術を発動させ、魔術の妨害が出来てしまうことができてしまった。


それは、生徒が呪文を発動させる前に『無限の幻影スキルオーバー』を発動させたハルトがよくわかった。


・『無限の幻影スキルオーバー』はハルトの意思によってその形や大きさを変えることができる。


ハルトは今まで『無限の幻影スキルオーバー』を発動させる時、自分を中心としたかなりの広範囲に向けてのみ発動させていた。


しかし今回、『無限の幻影スキルオーバー』の効果範囲をかなり狭く、しかも2ヶ所という複雑な形で発動することが出来た。


「つまり、これを利用すれば、『無限の幻影スキルオーバー』の使い道が広がるんじゃないか?」


ハルトはマナに相談を持ちかけていた。


ここはマナの研究室。


形質変化の魔術の授業の件があってすぐ、ハルトはマナの研究室に駆け込んだ。


マナは不服そうな顔をする。


「ハルトはただ、魔術発動のタイミングと『無限の幻影スキルオーバー』について、分かるだけ研究したいだけ、なんじゃないの?」

「ギクッ」


ハルトがマナの言葉に冷や汗をかく。


形質変化の魔術の授業の件があって以降、ハルトはウズウズして仕方なかったのだ。


自分の魔術の可能性について。

そして、自分の考えが外れていた魔術発動のタイミングについて。


知りたい。もっと深く理解したいと。


「い、いいだろ? マナも知りたくないか?」

「それは……知りたいけど」


かくいうマナも、ハルトの話を聞いて試してみたくなっていた。


知識欲。

研究欲。

魔術を究める上で必要な物の1つだ。


早速、2人は取り掛かることにした。


「それで、どんな実験をするの?」

「まずは、考えてたことがあるんだ……」


ハルトはイメージする。


自分の中にある複雑な形状の構造物。

それを、形を組み替えていく。


ーー発動、『無限の幻影スキルオーバー』。


ハルトは『無限の幻影スキルオーバー』を発動させた。


「……見えないからわからないんだけど、どんな形をしているの?」


マナは魔術を発動させ、杖の先端に風を発生させるが、普通に発動できた。


「俺の手の周りに魔術を発動させて見てくれ」


ハルトに言われ、マナはハルトの手の周りに炎を発生させる。


「あっち! 悪意があり過ぎる!」

「ごめんごめん、手の周りって言うから大丈夫かなと思って」


炎はハルトの手を焼いてしまったが、ハルトが持っている『それ』には一切侵入しなかった。


無限の幻影スキルオーバー』の剣。


ハルトは自分の手に剣の形の『無限の幻影スキルオーバー』を持つイメージをしたのだ。


やがて、炎が剣の中に侵入してくる。


「あれ?」

「これって……」


やがて、剣の形は跡形もなく消え、ハルトの手は炎に包まれた。


「熱い熱い熱い!」

「わっ!すぐ消化するから!」


ついでに治癒魔術でハルトの手も治した。


その後、色んな方法を試した。


無限の幻影スキルオーバー』の剣で発動と同時に魔術を切り裂いた結果、魔術は不発にすることができた。


しかし、魔術発動の前に切っても、そこに『無限の幻影スキルオーバー』は存在しないため魔術は発動出来てしまった。


だが、魔術発動後の場合、『無限の幻影スキルオーバー』は魔術に当たり、鍔迫り合いの状態となった。


つまり、『無限の幻影スキルオーバー』は魔術の塊であるため、魔術に触れることができるのだ。


盾や壁など、他の形でも試してみたが、魔術回路が完成するその瞬間までは魔術発動を阻害できるが、魔術回路が完成した後は、『無限の幻影スキルオーバー』の中に魔術が侵入してこなかった。


しかしそれは、あくまで、だ。


魔術の結果であるものは、簡単に入り込めてしまった。


例えば風や、ハルトの手を焼いた炎など。


魔術によって出したモノには、触れることができなかった。


ハルトの『無限の幻影スキルオーバー』は、発生したものの原因である魔術には触れることができる。


つまり、『無限の幻影スキルオーバー』で炎や風を触ることはできないが、発生源を触り、それを遠ざけることはできる。


「色々試してわかったけど、これ、使える場面が来るのかなぁ」

「まぁ、普通はないでしょうね。決闘でもしない限り」


そんな会話をしているが、新しい発見をして楽しそうにしている2人なのであった。




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