9話 サラ=ハルクサトリ
「何なのよ……もう……」
マナは頰を膨らませて呟いた。
それもこれもサラ=ハルクサトリのせいだ。
決闘で優位に立っていたはずのサラは、勝負を放棄してしまったのだ。
それで、サラ相手になんとか勝とうと奮闘したマナは納得いかずに未だに憤慨しているというわけだ。
「まぁまぁ、気持ちは分かるけど、これで魔術研究ができるんだからいいじゃないか」
元々マナと共に魔術研究をする予定だったハルトがマナをなだめる。
「勝ちを譲られたみたいで悔しいじゃない!」
マナは子供みたいに駄々をこねる。
「そもそも、色々とおかしいのよ!あの子は!」
「おかしい?」
ハルトが首を傾げる。
「あの子は孤児なのだけれど、拾われる前の経歴が全く分からないのよ」
「そんなの、普通じゃないか?」
孤児に過去がないのは仕方ない事のように思える。
「いえ、彼女が拾われたのは3年前、警戒区域で瀕死の所を助けられたの」
「それって……」
警戒区域で助けられた、ということは、警戒区域に出て魔獣に襲われた、ということではないだろうか。
「それなら、家族や友人が彼女の事を知っているはず……でも」
マナは続ける。
「連合国の中で、彼女を知る人は1人もいなかったそうよ」
「それって……」
つまり、サラは国外から来た、という事だろうか。
「……もうこの際だから、調べちゃおうかしら」
「え?」
マナがいやらしい笑みを浮かべる。
「尾行よ!尾行して彼女の秘密を調べるのよ!」
「なんでそうなる……」
ハルトは全く乗り気でないものの、マナがいなくなるとやることもなくなるので、とりあえず付き合うことにする。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「こんにちは〜!また一緒に遊びましょうね〜!」
「うん!またね!サラちゃん」
学校中を歩き回って、女子生徒と別れる所のサラを発見する。
「いたわよ」
「趣味が悪い……」
そう言いつつ一緒に尾行するハルト。
「あ!ジェイドさん!」
サラは男子生徒に声を掛ける。
「おう!サラちゃん!」
男子生徒はサラを見た途端元気に応答する。
「例の魔術、成功しました?」
「いやぁ、それが中々上手くいかなくて……悪いね手伝ってもらったのに」
「いえいえ!またお手伝いしますよ!」
こうして、サラはジェイドと言うらしき男子生徒の魔術研究を手伝うことに。
ということで場所は魔術試験場へ。
ジェイドが行おうとしている魔術は巨大化の魔術だ。
今までに体を大きく見せる幻影の魔術は存在したが、巨大化を含め質量変化の魔術は成功例がない。
「どうすればいいかなぁ?」
ジェイドは情けなくサラに頼る。
「う〜ん……わかりません〜!」
頭を悩ませ、結局ダメだったサラ。
ならなぜ手伝いを買って出たのだろうか。
「でも、似たような魔術を使う子なら呼び出せますよ〜!」
そう言って地面に魔法陣を描いていくサラ。
そして、人間の2倍はありそうな大きな熊が姿を現わす。
「ベアちゃん、行け〜!」
ベアと呼ばれた熊は突如光り、ただでさえ大きなその巨躯を2倍にも3倍にも大きくする。
「ベアちゃん、戻れ〜!」
ベアは元の大きさに戻る。
「どうです?」
サラはジェイドに訊く。
対するジェイドは困った様子で答える。
「いや、あれだけじゃ分からないよ」
「じゃあもう1回やりましょうか?」
ベアが構える。
「いや、そもそも魔術回路が分からなきゃ参考にならないよ・・・」
「ありゃりゃ! すみません〜!」
ジェイドの言葉にしょんぼりするサラ。
「いや、でも助かったよ。同じ様な魔術はあるんだってわかったから。また今度も手伝ってよ」
そんなサラにジェイドは優しい言葉を掛ける。
「ぜひぜひお頼り下さい〜!」
サラは元気に手を振る。
そうしてジェイドと別れた。
その後も同じようにサラは誰かに頼られては手助けをしたり、誰かに呼ばれては談笑をしたりを繰り返していた。
そんな様子を見たマナは。
「何あれ……誰にでもいい子ぶってるだけじゃない」
怒りに震えていた。
「少なくとも今のマナよりはいい子だと思うけど……」
「私と決闘した時口調も性格も違ったじゃない!猫被ってるのよ猫!」
マナは大分荒れていた。
ハルトはマナの怒りがなんとか静まりますようにと願うのだった。
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