4話 魔術の使えない魔王



 結局、その後もハルトは魔術を成功させることができなかった。


 魔素の反応までは見られるが、実際には何も起きないのが現実だった。


 それを見た生徒達の盛り上がりは一気にブーイングの嵐へと塗り変わった。


「魔王になったっていうのは嘘じゃないのか」「極印きわみのいんも自分で付けたものじゃないのか」という声も上がったが、学院側から「検査の結果、印は本物」という通達があったため、嘘吐き呼ばわりだけはなんとか回避された。


 しかし結果、ハルトは極魔術きわみまじゅつが使えない魔王というレッテルを貼られてしまった。


 現在、授業も全て終わり、ハルトは耐衝撃設備の整った魔術試験場を借りている。


 理由は勿論、使えなかった極魔術きわみまじゅつの訓練をするためだ。


 ハルトは意識を集中させる。


 自分自身が魔術回路であると、意識の中に魔術回路を組み立てていくイメージを立てる。


 そして、魔術の発動を意識する。


 魔素がハルトの周囲の広範囲に渡り群がり、そしてーーーーーーーーーー。



 ーーーーーーーーーーーー。



 何も起きない。


 何度やっても何も起こらない。

 ポーズを変えたり、集中する時間を変えたり、叫んでみたり、色々と試してみたが、やっぱり何も起こらない。



「魔王になれたなんて……夢だったのかな……」


 ハルトは思わず呟く。


 魔獣に襲われた時は、無我夢中で魔法を発動させようとして、確かにが起きた。


 それをノーリス達も見たからこそ、湧き上がり、ハルトの事を学院中に吹聴して回った。


 ノーリスに関しては、どこか不服そうな雰囲気が漂っていたが。


 だが、実際フタを開けてみれば、ハルトの魔術は不発。


 極魔術きわみまじゅつのはずの魔術は全然使い物にならない。


「……まぁ、いいや」


 ハルトはとりあえず極魔術きわみまじゅつに関しては諦める事にする。


 極魔術きわみまじゅつ


 ハルトはノーリスが魔獣に襲われた事で、危機意識が魔素への怖れを上回り、魔素に対する怖れが薄れているのを実感していた。


 今でも魔素が苦手なのは変わらないが、極魔術きわみまじゅつを発動させようとする姿勢から分かる通り、魔術を発動させようとして魔素が反応する事への絶対的な拒否感は、魔王になった今ではなくなっているのだ。


 つまり、普通の魔術が発動できるかもしれない。


 ハルトは鼓動が早くなるのを感じる。

 怯えや怖れではない。

 期待の緊張がハルトの鼓動を速くしているのだ。


 早速、ハルトは地面に魔法陣を書き込む。


 魔法陣の上に置いた物質の形状を変化させる魔術だ。


 文字や陣の形に乱れがないよう、慎重に線を引いていく。


 変える形はシンプルに円。

 魔法陣上の木材を対象に指定。


 魔術回路に必要な情報を次々と足していく。


 そして、魔法陣は完成し、木材を乗せ、後は魔術発動の呪文を唱えるだけだ。



 魔素が魔法陣の周りを今か今かと徘徊している。


 だが、不思議と気持ち悪さと拒否感は薄れていた。


変化せよトランスフォーム!」


 呪文を唱えると同時に、陣に群がっていた以外の魔素が一気に引き寄せられてくる。


 こんな現象は見たことがなかった。


 そしてーーーー。


 何も起こらなかった。



「……え?」


 普通の魔術すら失敗した。



 ハルトは膝を地に着いた。


 もしかして、自分は魔王になる前から魔術なんて使えなかったのではないか。


 自分には魔術の才能がなくて、ことごとく失敗するんじゃないのか。


 そう思うと、苦々しい笑いがと涙が込み上げてきた。


 折角魔王になれたのに。

 折角皆が認めてくれたのに。

 折角父親が喜んでくれたのに。


 自分はなんて無能なんだろう。


 そんな風に、ハルトが自分を卑下していた時。



「ちょっと!」


 いきなり声をかけられる。


 腰まで伸びた黒髪の、背のすらっと高い美女に。


 美女はやや興奮気味にハルトに迫る。


「貴方!何をしたの⁉︎」

「へ?」


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