2話 極魔術《きわみまじゅつ》
「警戒区域に行こうぜ」
学院では仲の良い者同士でよくグループができる。
ノーリスのグループの1人が気軽にそんな事を言う。
マキリス
その理由が警戒区域だ。
警戒区域は人が生活できない状態の地域で、マキリス
そのため、人々はマキリス
「あ、危ないだろ」
ハルトが口出しする。
「ビビリは黙ってろよ。お前には聞いてねえよ」
言い出した張本人がハルトの態度に舌打ちする。
「まぁ、行ってみるのもいいんじゃないかな」
そう発言したのはノーリスだ。
「警戒区域は未発見の動植物も多い。僕らの魔術の研究にも役立つはずだよ」
「だな!流石、ノーリスは言うことが違うぜ!」
「親魔性だけ高いビビリ君とは大違いだ!」
親魔性。
それは魔素との反応のし易さを表す言葉だ。
物質、形、行為、あらゆる物に親魔性があり、親魔性が高ければ高いほど、高精度で魔術が発動できる。
そのため、人々は親魔性の高い魔術回路を研究しているのだ。
ハルトは検査の結果、親魔性が高く、以前はどんな魔術でも使いこなせるだろうと期待されていた。
しかし、当の本人は魔術を使う事に拒否反応を示してしまうため、周りは彼を蔑むのだ。
「さぁ、暗くならない内に行こうか」
こうしてノーリス達は警戒区域へと行く事になった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
険しい山道をノーリス達は進んで行く。
警戒区域は人の手が加わっていないため、切り立った崖や岩がせり出したあぜ道も多い。
木々の感覚も狭く、人が歩くのは難しく、足場がないような状態だ。
そんな中、ノーリスは先人を切って進んで行く。
足場のない道は道を
その様はまさにリーダーと言えるものだった。
「すげぇなノーリスは」
「流石、次の魔王候補と言われるだけはあるよ」
魔王。
それは究極の魔術使いの敬称だ。
魔術を極めた者は魔王となる。
どうすれば極めるに至るのか、その明確なラインは分かっていない。
同系統の魔術を3000種覚えた事で魔王になった者もいれば、1つの魔術を極限まで研鑽した結果魔王になった者もいる。
ただ1つ、魔王には共通点がある。
魔王になった者は真っ白な空間で扉を開き、その者にしか使えない究極の魔術、
現在、連合国には
そして、次に
(やっぱりすごいな……ノーリスは)
ハルトは心の中で自嘲気味に呟く。
ノーリスに対して自分は、魔術もろくに使えず、今でも何の役にも立っていない。
ハルトは変わりたいと心の底から願うも、こんな自分では変わりようもないと、卑屈に考えてしまう。
しばらくすると開けた場所に出た。
「すごいな……」
ノーリスが思わず呟いた。
そこには見たこともない景色が広がっていた。
一面に深い緑の山や草原が広がっており、川が流れている。
まさに大自然の風景だった。
「見ろよ! 知らない植物が生えてる!」
仲間の1人が気軽に植物の元へ走って行く。
そこに、危機が訪れた。
「ルァァァアアアアア!!!!!」
けたたましい獣の声が響く。
黒い霧に体を覆われた赤い瞳の、闘牛のような獣が、植物の近くまで走った男の前にいた。
「う、うわぁぁぁああああ!!!!! 魔獣だぁぁぁぁぁあああ!!!!!」
警戒区域に人が寄り付かない理由はただ1つ。
魔獣と呼ばれる、存在そのものが謎の獣が存在するからだ。
魔獣はその生態が謎で、分かっていることは魔術が使えること、目が赤く光り体が黒い霧に覆われていること、魔術以外の干渉を受け付けないことだ。
人の住む地域は獣が嫌がる音波を魔術で流しているお陰で魔獣が寄り付いて来ることはないが、警戒区域では魔獣があらゆる動植物を蹂躙し、危険とされている。
「ルァァァアアアアア!!!!!」
魔獣が男を襲おうとする。
「危ない!」
ノーリスが男を突き飛ばし、魔獣がノーリスに激突する。
「ぐぁッ!」
ノーリスが右肩を怪我する。
魔獣はそのままノーリスに狙いをつける。
「くっ!」
ノーリスは魔術回路を組もうとする。
しかし、それよりも先に魔獣が突進してくる。
人間は魔術を発動させるには魔術回路を組む必要がある。
しかし、魔獣は魔術を使うまでもなく人間を破壊できる。
このままでは、ノーリスの魔術発動前に魔獣の突進はノーリスの腹に突き刺さる。
直前、ハルトが魔獣に体当たりをする。
魔獣の突進は逸れて後ろの木にぶつかる。
魔獣の標的はハルトに変わる。
(ビビるな……ビビるな……)
ハルトは魔獣が怖い。
魔獣の体は魔素で溢れ、得体の知れない何かが蠢いて見えるからだ。
だから、ハルトは普通の人間以上に魔獣に対して恐怖心を覚える。
だが、今は非常事態。
ノーリスは怪我をし、一歩間違えれば皆が死ぬのだ。
ーーーーーー魔素が怖いなんて言ってる場合じゃない。
ハルトは魔術回路を組む。
魔素がハルトの魔術回路に集まってくる。
ねっとりした汗がじわりと滲む。
怖い。
魔素の得体の知れなさが、恐怖がハルトを煽る。
しかし、ハルトはぐっとこらえる。
「皆をーーーーーーーー助けるんだ!」
爆破魔術が魔獣を襲う。
はずだった。
気付けばハルトは白い空間にいた。
「ーーーーーーえ?」
ハルトは辺りを見回す。
そこには何もない。
ただひたすら白い空間が広がっていた。
そして、その白い空間にポツリとある扉。
ハルトは、その扉を潜った。
ーーーーーーーーーーーー待ってた。
その扉の向こうには、鮮やかな桃色の髪の少女。
その顔が見えようとしたーーーーーー。
瞬間、元の場所に戻る。
(何だったんだ……今のは?)
突如、魔獣が目の前に現れる。
さっきまで、ハルトは魔獣に襲われる寸前だったのだ。
ーーーー殺される。
そう思った瞬間。
ハルトは本能的に『それ』を発動した。
ーーーーーーーーーー
ぐわっ!
魔獣の霧が突然晴れる。
闘牛は突然の事態に驚き、そのまま去って行った。
ハルトはポカンとして呟いた。
「俺がやったのか?」
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