第十六話 居場所の割り出し

 目的地は決まった。後は慎重に進んでいくだけだ。


 舞踏会場は敷地内の中央にある。その後方から西にある夫婦の屋敷と東にある使用人の暮らす家それぞれに向かって植木などで庭が作られている。来賓が泊まる館は舞踏会場の東側に位置しているようだ。俺の通ってきた地下水道へは北東の入り口からしか行けない。他は人が通れるような幅がなく、出来立てほやほやの汚水が流れてくるので使用できないのだ。


 見取り図の確認などで時間を潰してしまったが、方針を決めたら行動開始だ。


 庭の茂みに身を隠しながらがさがさと移動していく。音を立てる場合『気配遮断』は使えないが、『気配同化』が使えるようになっている。『気配同化』は厳密に言えば周囲に溶け込み自分の気配を気取らせないようにする技能だ。『気配遮断』が自分をいないモノとして認識するので音を立てたり声を上げたりしてしまうと解除される。だが『気配同化』なら多少であれば風のそよぎとして認識できる。もちろん動いているのを見られた場合、なにかいるかもしれないという疑念を抱かせてしまうのでダメだ。


 ということで、『索敵』で周囲に人がいないことを確認して茂みの中を進んでいく。


 途中貴族が大勢集まるせいか警備の兵士が歩いていて、心臓が跳ね上がった。風が強まり木々のざわめきが大きくなったところで慎重に進みながら、決してこちらを見ているタイミングで動かないように気を張る必要がある。兵士は特定の距離を行ったり来たりしていた。お前はNPCかよと思うほど正確な距離を行き来するためわかりやすくはあったが、横の茂みを通らなければならないため緊張した。俺にもっと度胸があれば、誰も見ていないタイミングで襲いかかりオトして茂みに隠す、なんてこともできるのかもしれないが。

 残念ながらと言うか当然と言うべきか。失敗したらどうしようとか、オトす直前で声を上げられたらとか、そんなことばかり考えてしまって行動できなかった。

 今回の暗殺を成功させることを目標として掲げるなら、危ない橋は渡らない方が賢明だ。本番でもこれくらいの判断力は残っているらしい。


 バレないよう慎重に茂みの中を進んで、ばくばく言っている心臓の音が聞こえないだろうかとすら思いつつも、なんとか突破した。もうやりたくない。


 この世界に“才能の儀"があり生まれ持った才能が将来の職業に影響するということからもわかる通り、たかが一兵士と侮ってはいけない。兵士という戦える職業に就くからには、戦うための才能を持っていると思った方がいい。つまり俺からしてみればモブに見える兵士でも、俺より強い力を有している可能性が高いのだ。正面からやり合うのは愚策と言える。


 庭の茂みを進めば、舞踏会場の裏手に辿り着ける。茂みが道を作るように整備されており、俺は左手側、つまり舞踏会場側の茂みを進んでいた。なのでそのまま舞踏会場裏口へと到着できたのだ。


 舞踏会場は低い円柱のような見た目をしていて、一階では立食ができ、二階は天井がないため空を見上げながら一流音楽家による演奏の下ダンスができる。

 『闇に潜む者』たる俺からしてみれば眩いくらいにシャンデリアがあるとか師匠が冗談交じりに言っていた。要は会場内に潜入するのは俺では難しいということだ。


 ただしどこにでも裏方というのは存在するもので、会場となっている一階と二階のメインホールの北側は控え室や立食用の調理室などが完備されている。


 裏口である俺の目の前の扉から、裏方で動いている者達が出入りしているのだろう。

 鍵は開いているようだったが『索敵』で中に二人いると察知する。一人なら最悪オトして隠すという方法も取れるが、二人となると無理だ。一人をオトしている間にもう一人が抵抗、若しくは助けを呼ばれる。どちらかが見ていない瞬間ならできるかもしれないが、今の俺がそんな大胆かつ繊細なことをできるとは思えなかった。一応人ならどう首を絞めればオトせるかは教えてもらっている。いざという時のための選択肢だそうだ。念のためモンスター相手でも試してみたが、成功している。モンスターより弱い人が相手ならもっと簡単にできるとは思う。ただ夜の完全な不意討ちでできたことだ。明かりのあるかもしれない室内では難しい上に、敵も二人いる。扉を開けて侵入するのは無理そうか。


 となれば別の道を探すしかない。


 と言ってもどうしたものか。


 舞踏会場裏口付近を見上げて侵入できそうな場所がないかを確認する。

 脳内に記憶した見取り図を思い出して侵入経路になりそうなモノを考える。


 ……道は二つか。


 しばらく考えて、俺にできそうなことを挙げる。

 一つは、壁を登って屋上に出る方法。屋上から中に入って管理室を探す。

 もう一つは、壁を登って窓から入る方法。鍵の開いている窓、中に見回りの兵士がいない窓を探して中へと侵入する。


 このどちらかだ。


 ただどちらにせよ壁を登る必要はあるので 、俺の黒い服装でこの白亜の壁を登っていればバレてしまう。……日が落ちるのを待った方がいいか。【闇に溶けゆ】で存在を認識させないようにしなければ外で見回りをしている兵士がふとした瞬間に気づくかもしれない。


 茂みの中でじっとしたまま、兵士が離れている時に右耳のイヤリングへ触れた。


「……師匠。舞踏会場に侵入するので日が落ちるまで待ちます」


 【会話】を開始した時の声は相手にしか届かない、というのは連絡を受けた時と同じだ。自分の暗殺の進捗を伝えるのに一言あった方がいいので、余裕があったら連絡をくれと言われていた。

 パーティー開催から一時間くらいは経っただろうか。師匠も会場のどこかに紛れているはずだ。なんか高級そうなドレスを選んでいたような気はする。特に興味もなかったのでさくっと宿を出てきたが。


 そのままじっとしていると、ぱんという大きな音が聞こえて屋上の方からなにかが発射されたらしい。そして遥か上空でそれが弾け大きく火の粉を散らせた。……花火か。まぁ日本の花火よりは小さいが、パーティー開催の合図だろうか。まさかこれも異世界人の脳から吸い上げた技術とかじゃないだろうな。

 繁栄とは犠牲の上に成り立つモノだ、とはいえ犠牲になる側の人間からしてみれば胸糞悪い話である。異世界人が協力した、またはこの世界の人々が頑張ったという風に思っておこう。


『――あら。今のはなんでしょうか』


 不意にイヤリングから声が送られてきた。師匠の【会話】、だろうか?

 思わず俺が断言できなかったのは、あまりにも口調が違ったからである。声の元は同じなのだが口調と印象でこうも聞こえ方が違うのかと驚く。アニメだったら声優さんって凄い、と思うところだ。


『あぁ、あれは花火だよ』


 近くに他の人間がいるのか、年齢の高そうなおじさんの声が聞こえてきた。


『なんでも異世界人の文化でね。ここだけの話、脳から吸い上げた技術の一つなんだ。綺麗だろう? 異世界人も役に立つ。こうして我々貴族の心を潤してくれるのだから』


 得意気に語る男の声に眉を顰める。聞いていて気持ちのいい話ではなかった。というか俺の少しでも前向きに考えようとした思考を打ち砕くタイミングである。


『ええ、そうですね』


 話を合わせるためか師匠はそう相鎚を打った。普段のさばさばした口調とは異なり、上品な雰囲気を感じる声音だ。そういう風に作ってきたのだろう。


『花火はもう終わりなのですか?』

『いいや、パーティーのフィナーレに特大のが上がる予定だよ。それまではないけど、楽しみにするといい』

『……屋上から打ってるけど、合図が終わったらいなくなるだろうね』

『ん? なにか言ったかね』

『いいえ、なんでもありません』


 途中声のトーンが落ちたのは俺に聞かせるためだったのだろう。おそらく俺が壁を登って入ると読んだ上で屋上から侵入できるかの情報を聞き出すつもりだったのだろう。そして師匠と話している男によれば、花火は開幕とフィナーレの二回のみ。フィナーレには特大の花火を上げるらしいので準備に時間がかかる可能性はある。屋上に運び出されているにしろ、どこかから持ってくるにしろ、フィナーレまではまだまだ時間がある。ずっと屋上で待機するということはないだろう。実際に行ってみないと断言はできないが、いない可能性が高い。


『おぉ、そうだ。どうだね、フィナーレの時まで一緒にいるというのは。私は顔が利くのでね、色々と融通できると思うのだが』

『遠慮させていただきます。こういう社交の場で自ら関わりを得るのもまた、社会勉強の一つですから』

『ははは、そうか。ではこれで』

『ええ、良い一時を』


 どうやら口説かれていたらしい。別に俺は師匠のことを異性として見ているわけでは決してないが、美人に言い寄ってフラれる様を聞けると心からこう思う。


 ざまぁ。


 さて。師匠のおかげで少し心が軽くなったこともあり、日も落ちたので壁登りを始めるとしようか。

 兵士に気づかれないようこっそりと茂みを抜け出す。そして気配を殺した。この状態なら五感で俺の存在がわからなくなる。触れられたらわかるが、俺がすぐ傍を通っても空気の流れを感じることがない。音を立てないように注意しながら身体を解し、高い壁を見上げた。


 ……当然、明かりは点いてるよな。


 闇の弱点と言えば光。というのもあるが光に当てられてしまうと【闇に溶けゆ】が解除されてしまう。窓から外へ漏れる光に当たってはいけない。窓から侵入する案はなしだな。窓を開ける動作をする時に姿が映ったら、光っていることもあって俺がいるとバレてしまう危険性が高い。やるなら屋上からがいいか。


 闇に紛れたまま壁を見上げてルートを考える。

 光の漏れる窓は一階部分にはないようだが、二階から四階まで備わっているようだ。並び順は設計者のセンスなのか、一定間隔で二つの窓が並び、少し間を空けてまた二つ並ぶという風になっている。二階から四階まで縦に真っ直ぐ並んでいるので窓のないルートを考えるのは簡単だ。


 ただ取っ手もなにもないところを登るのは、今の身体能力では不可能だ。どんな握力をしていればそんなことができるのか。凸凹の激しい壁なら兎も角、見たところ真っ平らだ。掴んで登るとか無理だろう。

 なので俺は自分が掴めそうな場所を見つけなればならないのだが。


 足場に使えそうなモノとしては、窓枠が挙げられるか。掴む場合だと指に光が当たってしまうのだが、足場にする分には光が当たらないと思う。ただ注意は必須だ。

 できれば二つ並んでいる窓枠の間に身体を入れて足場にしたい。とはいえ窓があるのは二階からであり、一階部分の壁には取っ手もなく登れそうにない。

 こういう時は周りのモノが活用できないか探すのだと教わった。


 そして見つけた。


 少し離れた位置だったが、木箱が積まれている。あれなら一階部分は越えられる。

 ただあれでは窓枠に足をかけられない。手をかけるならできるがそれでは先がない。つまりもっと高いところに行く必要がある。階と階の間に出っ張りがあるのでそこを使えば一つ目には乗れるか?


 なんとか行けるか?


 いや行くしかない。

 木箱を上がって二階床の高さなのだろう出っ張りに登り窓枠の上へ跳躍。勢いを殺したら終わりだ。続けて三階の床だろう高さの出っ張りを掴んで上がり窓枠の上へ跳ぶ。窓の間の隙間を利用したいのは、できるだけ咄嗟に掴める場所が多いルートを選びたいからだ。

 なにせ命綱もないのに僅かしかない窓枠や出っ張りに足をかけようというのだ。重心が少しでも後ろへズレたら落下して死ぬだろう。だがここ以外に潜入ルートはない。少なくとも未熟な俺にはわからない。


 ならやるしかない。


 意を決して念入りに気配を消し、闇に同化する。その状態で屋上までのルートを見上げる。そして駆け出した。

 足音を一切立てずに、されど勢いをつけて。


 木箱のある方へと走り箱へ飛び乗る。夜の身体能力なら手を使わず乗ることができた。そこから一階と二階の間にある出っ張りへと跳ぶ。まず手で掴み足を振って横からかけ身体を持ち上げる。出っ張りの幅は五センチもない。足を横向きに乗せたとしても収まり切らないくらいの幅になっている。さてここからは勢いが大事だ。

 二つ並んだ窓の間の位置までゆっくりと移動して呼吸を整える。早鐘を打つ鼓動を緩めて頭を冷やす。そして跳躍した。窓の間に身体を入れる形で跳び、そのまま厚さ一センチほどの枠を横から蹴るように足場へと変えて左右左右とリズム良く上がっていく。上の窓枠に足を乗せられたらそのまま上へ跳んで次の二階と三階の間にある出っ張りへと手をかけた。それをずっと繰り返して、屋上を目指す。


 屋上へ上がる時は出っ張りに手をかけて上がるところが、一番上の縁にかけるように変わるだけだ。ただちょっと内側にカーブしている上に窓から出っ張りまでの高さより高くなっている。だが夜ならいけるはずだ。大丈夫。今までこうやって侵入できるように身体を鍛えてきたんだから。焦りそうになる心を落ち着けて跳躍、片手ではあったがなんとか掴むことができた。もう片方の手もかけて壁に足をかけるような体勢になる。今一度『索敵』と『気配察知』で屋上に誰もいないことを確認した。息を吸って止め、壁を蹴って手を突いたまま一回転、途中で手を離して足から着地する――上手くいった。……ただこんな高いところでやることじゃないな。ゆっくり上がれば良かった。


「……」


 屋上には誰も視認できない。大砲らしきモノがあったので、これで花火を打ち上げていたのだろう。俺は恐る恐る背後を振り返り舞踏会場付近を見回っている兵士がこちらを見ていないか確認する。高さがあるので肝っ玉の冷える光景だが、誰もこちらを見ていない。気づかれてはいないようだ。俺は屋上の縁から降りて内部へと続く扉に歩いていく。


 ここまでは序盤だ。これからは人のいるところでどこまで上手く隠れられるかが大事になってくる。


 扉には鍵がかかっていないようだ。音を立てないよう慎重に開けて、『索敵』を全開にしながら進んでいく。

 屋上からは階段で下へ降りていくようだ。階段から中までずっと明かりが点いている。これでは【闇に溶けゆ】を発動することができない。見られたら認識されてしまう。難易度は上がるが、見られていない時に動けばなんとかなる。『気配遮断』とはそういうモノだ。


 音を立てずに階段を降りて事実上の最上階に入る。師匠から貰った見取り図によれば、階段は全ての階の同じ場所にある。だから降りようと思えば一階まで降りることが可能なはずだ。俺が行きたい管制室が何階にあるのかと言うと、三階だった。

 ここが四階なので一階分降りればその階には辿り着ける。だがそこから先どうするかは微妙なところだ。管制室は重要な部屋だ。部屋の外には最低でも二人見張りがいると予測される。加えてうろちょろする兵士もいる。四階はばたばたしているが、三階は静かだろう。緊張感ある階となっているはずだ。


 今はとりあえず四階を突破しなければ。『索敵』で人の来ないタイミングを見計らい、ダッシュで次の階段へと向かう。成功した。俺の『索敵』でも真下にいる人ぐらいは感知できる。が上の階へ向かう人、下の階へ向かう人に見つかる可能性は高い。

 さっさと近くの部屋に入りたい。確か通気口で繋がっていたはずだ。管制室は裏口があった場所の真上に位置している。階段は端の方にしかない。人がいない近くの部屋へ入るとしよう。階段を降りた地点から廊下にいる人がこちらを向いていないことを確認し、『索敵』で人がいないことを確認した一番近くの部屋の扉を開け身体を滑り込ませる。音を立てないように扉を閉め、一息ついた。……ここはなんの部屋だったか。ボーイさんの控え室とかだったような気がする。着替える前の衣服が散らばっていた。何人かが脱ぎ散らかしていったらしい。しかも男臭さを香水で上塗りしたような匂いがする。貴族の前に出るから香水をつけさせられたのだろう。嫌いではないがずっと嗅いでいたい匂いでもないな。


 と、観察している暇はあまりない。天井を見上げて通気口を見つけ、少し机の位置をズラして乗り、通気口の入り口にかかった金網を手で押す。こういうのは上から乗せるように嵌めてあるらしい。手で押してズラし、入り口を開けた。

 そして縁に両手をかけて跳躍し、頭を通気口内に入れる。進むべき方向に頭を入れて上体を収めると、足を曲げてもう一方へ足を入れていく。腕力が必要な入り方だ。以前の俺だったら跳躍して頭を入れたところで腕の力が尽きてしまっただろう。通気口に身体全てを入れることができたら、入り口を元に戻しておく。開けておいたら誰かがいると知らせるようなモノだからな。机の位置をズラしてしまったが、多少なのですぐにバレることはないはずだ。脱ぎ散らかされた衣服からも急いでいた可能性が示されている。なら机の細かい位置まで覚えている人も少ないだろう。


 細い通気口は薄暗くて狭い。俺の体格でも辛うじて四つん這いできる程度の高さだった。入り口の真上だからまだ発動されないが、暗い中なので基本【闇夜に乗じて】が発揮される。音を立てないようにだけ気をつければ、スムーズに進めた。しかも通気口はよく活用するのか訓練場にも似たようなモノがあった。


「っ……!」


 しかし、管制室まで進む間の部屋の上を通る時に、思わぬ妨害があった。


 ……き、着替えている、だと!?


 俺の心に動揺走る。いや通る前に女性の声は聞こえていたのだが、着替えているとは思わないだろう、普通。

 しかも着替えている最中なら兎も角、暑いからなのかあられもない下着姿で談笑していた。人目を考えて欲しい。いや人目なんて本来ない場所なんだけれども。

 しかし俺はしばらくして冷静になり、その上を通過することができた。よくよく考えてみればうちの師匠以上に魅力的な女性なんてそうそういるはずもない。多少見てくれがいい程度で俺の心を乱すことなどできはしないのだ。

 ……とまぁ、見比べられるくらいに見ていたという事実は置いておいて、仕事をしよう。


 負い目を感じて少し早く管制室へと向かった。

 そして管制室を見下ろす位置の金網を覗き込む。内部には画面が投影されており画面の前にいる人が投影画面に触れてなにやら操作を行っている。見た感じ科学技術が発展していそうだが、現代知識でもここまではなかなか難しい。おそらく魔法で行っているのだろうとは思う。画面の前、座っている人の手元には異世界文字が複数列並んだ板が置いてあり、そこをカタカタと入力することで画面に反映させているらしい。PCのキーボードのような使い方だ。もしかしたら異世界人の脳を吸い上げて発想を貰ったのかもしれない。


 観察はここまでとしよう。

 俺が今回探しているのは部屋割りだ。できればそういったモノを担当しているヤツを見つけられればいい。


 作業している人達の画面を一つずつ確認していく。来客名簿っぽい画面や備品一覧っぽい画面があるが、部屋割りを確認している画面ならもっと視覚的にわかりやすいはずだ。見取り図のようなモノを見ているヤツを探せ――見つけた。部屋の図に番号が振ってあって、図の横にある表には番号の横に名前らしき文字が並んでいる。……チッ。ここからだと逆向きになってやがる。尚更読みにくい。


 セムカス・セザール。という名前の逆向きはどんなだったかと頭に思い浮かべつつ、目を凝らして部屋割りらしき画面を見続ける。しばらくして、ようやくその名前を見つけた。


 ……来賓用の屋敷最上階、北の部屋。


 見つけた情報を頭の中に叩き込む。部屋割りの画面を見ていても明らかにVIP待遇とわかるほど大きな部屋だった。位置がわかりやすくて助かるな。

 目的は達した。なんとか向きを変える、ことはできなさそうだったので後ろ向きのまま人のいなかった部屋まで戻り通気口を脱する。

 一つ達成したとはいえ油断は禁物だ。浮かれずに屋上まで退散した。


 外の空気を吸い込んで逸る心を落ち着け、冷静な頭で次の行動を考え始めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る