第15話 元素番号33砒素

第15話   

   元素番号33砒素   乙音メイ


 撒布されている毒物は、強烈な匂いがする。 身をもって体験したその症状から、砒素の混じった混合物と考えられる。

 2018年、今年の夏、ベランダに面した窓の下を素足で歩いていて、ヒリヒリと刺激を感じたことが度々あった。上の階の人は、頻繁にベランダで敷物か何かを、バサバサと払っている。払われた物は南東の風に乗って、我が家のベランダから、窓辺に着地。このヒリヒリする物によって足の皮が剝けた。これはただの刺激物の粉末ではないと思い、インターネットで検索をして症状から導き出された結果、砒素かもしれないと考えるようになった。


 上に住む人のこれまでの様子から、302号室への嫌がらせは、明確なものだ。私たち家族は、402号室のMさん夫婦とは赤の他人であり、特別な感情は持っていなかった。しかし、足の皮まで剝けてしまうような毒をまき散らすとは、いったいどんな人間なのかと思った。

 風を利用してベランダから撒いていたと思ったら、今度は天井や壁など、家の中のいろいろな隙間を利用して毒物を送り込むようになった。私は、めまいや、急性ショック症状が発症するようになってしまった。その症状からも元素番号33の砒素だと断定できる。

 

 混合物の中身は、砒素+スズラン毒+石灰+硫酸アンモニアではないかと推察していたが、確かにそうだと聞いた。叡智溢れる天使たちに。


 砒素は材木の防腐剤として、昔の屋久島では日常的な薬品だったのかもしれない。だが、これは一般には入手できない劇毒物だと思う。

「入手経路はどのように? 」

「あの病院の、カルトンドクターがカルトン看護士に渡して402の手にわたっているよ」


   *


 一方、混合物と思われる石灰と硫酸アンモニアは土壌改良剤の農薬として、商店で販売されている。石灰は、水に溶けると二酸化炭素を排出する。ところで、我が家には、フロンガスも気体と液化状の両方を撒布され、床材や壁、天井材、絨毯、布団に染み込んでいる。どおりで呼吸しづらい毎日だと思った。それによく冷える。


 アルカリ性の砒素・スズラン毒・石灰に、酸性の硫酸アンモニア、漂白剤のボトルにある注意書きの「混ぜるな危険!」の文字が頭に浮かんでくる。


 衣服、クッション、毛布などについてしまった砒素混合粉末を、何度洗濯しても、匂いも肌にピリピリした毒性も落ちないのは、散布する直前にアルカリ性粉末に酸性粉末を混合させ、化学変化し塩素ガスのような気化しつつある状態で、散布されているのかもしれない。匂いも鋭いくらいの刺激があるのは、その混合粉末が常に化学変化を起こしながらの状態にあるのではないだろうか。

 その毒混合粉末物が衣服に付着して、肌や鼻に刺激を感じて慌てて脱ぎ、水に放ってもまた洗濯中に付着してしまう。霧吹きしながらアイロンでもかければ毒の燻蒸化であり、結局、毒で煮しめたような衣服になってしまう。人体にも身の回りの物にも、大変な被害だ。


 大抵の弱アルカリ性洗剤では落ちないし、逆に酸性洗剤でも落とせなかった。砒素はイオン化しているところに引き寄せられるという一文を思い出し、「非イオン化」と表示のある洗剤を購入して試してみた。これはやや毒が軽減したのか匂いが薄くなった。次は中性洗剤も試してみようと思っている。砒素は静電気を好むので、柔軟剤の使用も欠かせない。


 町役場福○課O山氏の勧めでこの恵○須団地に入り、2018年12月25日で丸2年となる。砒素と言えば、食物に少しづつ混ぜて暗殺することや、保険金目当ての殺人のイメージが湧いて来る。

 まさか、本人の知らないうちに

「2年満期の生命保険でもかけられているのだろうか? 」

「○○○生命だよ」

「ヒャーーー!」


   *


「団地では年に一度まとめて1万3千円くらいだったかを、○号棟の分です、と言って代表の方が支払いに来ますけれど、あなただけどうしてこんなに回数も値段も多いのですか?」

と、支払いに行った先の受付窓口の方が私に尋ねた。衛○社からの請求額がうちだけ桁が大きいのは、これは保険金込なのだろうか? 他の世帯は県民共済で、うちだけ掛け金の多い○○○生命などの保険なのだろうかと、考えていたのだ。


 考えてみれば、生命保険というものも、人身売買の面がある。なりすまし親族や組織が横行して、ちょっとした飛行機搭乗や、ちょっとした団体旅行に本人承知の加入に加え、掛け金上乗せなどで本人が与り知らない分は存在してはいないか。


 戸籍は大丈夫なのだろうか? 移住してすぐ、役場で本籍を移そうとしたときに、係に当たってくださった男性が、

「屋久島には遷さない方がいいです」

と多くを語らず、それだけを言葉少なに進言してくださった。その時にはどんな危険が同居している島なのかが、顕在意識下では解っていなかった。



 2018年の6月からは目立って犯罪行為が増し、大変な目に遭った。主に毒粉末と電波だった。電波、電磁波で通電された砒素は、常に微弱電気を放っている体に付着し、外から体を蝕み、私の裸足の足の皮が剥けた。キッチンの作り付け戸棚の隙間から落下したと思われる白い粉が、ちょうど真下にあるステンレスの蛇口にパラパラとついていたこともある。散布によりいろいろな場所の隙間から、呼吸や食品戸棚への飛散や調理中の混入によって摂取させられた砒素は、身体の内側からも衝撃を与え、急性ショック症状を起こさせた。


 そうならない決意をしているが、もしも万一死亡に至るようなことがあれば、私と家族の遺髪を調べてくださることを意識のしっかりした東京地方検察にこの場を借りてお願いする。町役場福○課O山氏の勧めでこの恵○須団地に入居してから反復暴露の程度がどれだけのものだったか、髪に残留している毒素の痕跡を見つけ、期間と量を把握し糾弾していただきたい。


 入居した翌日、思わせぶりな演劇的なセリフでうちの玄関前を通り過ぎて行った上階の女性の存在は何を物語っているだろう? 一日前に入居して待ち構えていたとも言えるそのタイミングは、情報が漏れていたということが分かる。入居早々に購入した自転車のタイヤを6度もパンクさせるなど移動の足を奪うという卑劣な嫌がらせで、まず精神的なダメージを与え、それから毒物を少しづつ散布して肉体面でも弱らせ、最後は命を奪うという目的なのだろうか。


 するとこれは計画的なスケジュールにのっとった犯行、と答えは必然的に導き出される。その計画を立てた者はどのような組織に加担しているのか。これらの犯罪行為は、この地域では島外から移住してきた人々への日常茶飯の慣習なのか? このままだと地区ぐるみ、町ぐるみ、それは海に囲まれていることをいいことにした島ぐるみ? 島を放ったらかしにしている鹿児島県ぐるみなのか? 鹿児島県はどこかの組織に弱みや癒着があるのか? 


 こうして上へ上へと源流を辿っていく経路が必ずあることを忘れて放置してはいないか。この惨状を放っておいたら、それは自分たちの首を絞めていることと等しいことを忘れてはいないだろうか。


 自分の子供や孫たちは健康と平和を享受できるだろうか、(小学校近くの通学路に私が知る限りでは3か所、うちに散布される砒素混合粉末の強烈な匂いがした)、このままでは怪しい。


「金の流れを追え!」

と、よく聞く言葉に、

「毒物の流れを追え!」

が加わっていると思う。


 去年の夏、台湾語を話す女性に付き添うように、別の方がE‐2棟の下を案内するように歩いていた。女性は、日本語はまだ片言交じり程度だったが、親切にされているようだった。

「外国の方も町営住宅に住めるのね。困ったときはお互い様ね」

と、私はその時あまり気にも留めなった。


 しかし、私が見聞きした役場の方々の言葉や対応や様々の出来事から導き出されるこの安房での生活には、ただ事ではない事柄が含まれている。静かに進行している、そんな気持がしてくる。島の、国の、日本人というアイデンティティの乗っ取りが行われていると、おのずと導き出される。平和を好む人々ならばどのような民族でも歓迎だが、命を勝手に売買しに来るのは、日本のみならず世界中でお断りするだろうと思う。


 屋久島に住んでいる心ある人間には想像をはるかに超えた、あるいは恵○須団地の黒い噂を知っている人もいるらしいが、ともかくノーマルな感覚をまだ持っている人間だけでは、心許なく、手に余ることが、南国の「なんくるないさあ」的な優しく大らかな気風をあざ笑うかのように着々と進行してきたらしい過去があった。


 手始めとしてこの安房の恵○須団地群には、戸籍も家具もついた、犯罪を厭わない特殊な方々向けの住居群になってしまったのかもしれない。誰かが、町役場に入り込んでいる仲間を経由して入居してきたら、上階の住人と、壁伝いの密着した隣人に、まず精査される。精査の方法はもちろん、盗聴と覗きに頼るほかない。


 そうした精査で知り合いの人数の多寡の再確認が行われ、そのまま静かに脅しをかけておとなしくなった頃、やんわり、また、当たり前のように取り込んで家畜化させてしまう。一度でも懐柔されてしまったら、新しいターゲットの見張り役として1階の部屋に移動を命じられる。更に、私設託児所の奴隷として日曜日以外は破格の値段で採用され、幼児にトイレ訓練や着替えの仕方、簡単な算数などを教えるよう言いつかる。

 一方、我が家のように文筆や音楽などで生きていく決心をし、明るく豊かな輝かしい今と未来を創作活動で表す、そんな光りの人間だった場合は、家畜化を断念して保険金が目当てになる。2年を目標に、病院送り兼死亡のプランに組み込まれる。掛け金は、団地の他の住人とは別料金の十倍近い金額を、○○社の手書き請求書で直接ポストに入れられ、ターゲットの自腹で掛け金が徴収される。他の住人が県民共済レベルなら、ターゲットは○○○生命のがん保険の掛け金レベルであろう。上階の402号室から伝わってくる空気感やら何やらから、どうしてもそう思えて来るのだ。

 

 これ以上被害者を出し続け、密航者に日本人の戸籍と家具付きの空き部屋を与え、仲間に誘い込む山賊のような犯罪者たちと、日本人の戸籍で大手を振って役人や警官に就任し、新たな密航者のためのお膳立てに協力するような、メルトダウンした屋久島にはなって欲しくない。


 縄文杉も山も、島を愛する山岳ガイドも嘆いている。私は実際に見た、1メートルと離れていない場所で。この屋久島の山々を、善良さを、ごく自然に愛する、古くから山岳ガイドをしている方の、苦悩の表情を。




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『いちばん東の西のエデン2』メルトダウン編 乙音 メイ @ys-j

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