第7話 鹿児島県熊毛郡屋久島○営恵○須団地
第7話
鹿児島県熊毛郡屋久島○営恵○須団地
「団地ではなく一軒家を探して住むのがいいですよ」
こう言ったのはこの島の警察官二人である。一人は大柄でどちらかというと穏やかな、もう一人は小柄で鋭い眼差しの持ち主。どちらもそう言いながら、真剣な表情で私を見る。
その時は、その言葉の意味するところが、この島にとって重大な言葉である、と受け取る余裕がなかった。自分たち家族の苦しい状況を何とか理解してもらえ、助けてくれる人が必要だった。だから警官に家に来てもらい、確かに私たち家族が、2018年の6月24日、今この団地E‐3棟302号室で生きていることを知ってもらえたことは、ほんの少しでも慰めになった。これで殺されることはないだろうとは思うのだが……。
二人の警官も天井をチラッと見たように、犯人は、うちの天井裏に出入りしたり、朝から夜の9時20分頃までドスンドスンと歩き回る大柄な夫人、同じ時間帯をバタバタと駆け回ったり、ドスンとジャンプするなどの音が激しい小さな子供のいる、M(2018年9月夫J・Mとの離婚で姓が変わってからはM・N)という人物なのだ。警察官がうちに来てくれたのだから、これ以上愚かなことはしでかさないだろう、とその頃は思った。そう信じたかった。
「団地ではなく一軒家を探して住むのがいいですよ」
と言う警官の言葉を深く考えることもなく数週間が過ぎた。
そして、7月5日のことである。
夕方5時を回ってから、とてつもないマイクロ波が北側の窓外から来た。それは、冗談では済まされないほどの強大なものだった。外を確認した。
「こんな電波が出せるほどの装置とは一体何なのか?」
と思った。小学校隣接の団地内で、非人道的電磁波攻撃があることさえ、多大な違和感がある。それなのにさらにこの酷い兵器並みの強列な連続電磁的波動砲には、呆れ返ってしまう。ここまでなりふり構わないところは、バックにいる者がみんなを黙らせ、それがうまくいっていることを物語っているのだ。そのことを長きにわたって自負しているに違いない。
大きなものを積んだダンプカーや怪しい人間は見当たらない。だが、安○小学校の敷地のすぐ外側、この窓の位置から見て11時の方向に電柱が一本あり、2時の方向にも、一本の電柱がある。この電波は電柱から発生させているのか?
「これが人間の仕業なの?」
と、信じられずとも、圧を感じる方角は、ピタリと、この2か所から来ていると考えるのが自然だった。この電柱の管理は、N〇Tだ。1年近く前にこの電柱の1本南側の電柱工事をN〇Tの工事車がしているところが、南の窓から何気なく見えた。
安○小学校の団地側にある教職員用駐車スペースと2メートルくらい高台になっている小学校グラウンドを結ぶ階段を登りきったところにも、細めの電柱が立てられたところも見た。やはりN〇T工事車両が階段下に停車しながらの作業だった。こんなところに唐突に、何の目的なのかは不明だった。半年くらい後に、そこに、取ってつけたように今度は電灯が取り付けられた。また半年くらいしたら、その電柱の並びに当たる場所に30メートルくらいの長さに渡って鉄棒が設置された。電柱幅の土地使用のことで、N〇Tが謝礼の寄贈でもしたのだろうか。
そう思ったのは、ある知人のお宅のことだが、庭に東京電力の細い電柱が建っていて、その土地の使用料が東京電力から年額で、銀行に振り込まれると聞いたからだ。よく言われる、鉄塔からだけでなく、電線からも漏れ出る電磁波のことを考えれば、それは相当すると思う。
*
このような兵器並みのマイクロ波を防ぐ手立てが、平和そのものの私たちの家に何かあるだろうか? 電子レンジで食品を温めるときには普通アルミホイルは使われない。それは、電波を跳ね返すからだと思う。そこで私は、押し入れに敷いてあったアルミシートを急いで剥がし、窓の内側にガムテープで貼った。
これではまだ不十分なのは判っている! 身体へ感じる負担の減りは微々たるものだったからだ。しかし、家の中にあるもので、ともかくどうにか防御しなければ! 昔に経験したことだが、レンジに入れて調理時間を長く設定し過ぎた、チキンの様子が脳裏に浮かんだ。肉のタンパク質がマイクロ波でカチカチになっている、その様子だった!
「冗談じゃない、誰か助けて!」
そこで、窓の下の壁には、金属性の家電製品を立て掛けて置いてみた。
「だめだ!」
完全に自分の肉体を貫通していることが、感覚でわかる。窓の横の壁面からも、マイクロ波が物凄いパワーで押し寄せてきている。ジーンズや地の厚い長ズボンなどをハンガーごと壁の桟に重ねて吊るした。冬のジャケットも。そして、床に伏せた。
9時20分ごろまでおよそ4時間もの間、死を覚悟するほどの強大なマイクロ波を、こうして我慢するよりなかった。何を壁に並べても貫通していたことは判っている。犯人宅も、東側、西側両隣、E‐3棟の少なくとも西側半分はマイクロ波にさらされていたと思う。
そればかりではない、このE‐3棟を貫通し、50メートルほど南に建つE‐2棟にも、それは楽々届いたと思われるほど激しかった。
ところで、犯人や犯人の仲間たちの世帯まで巻き込むマイクロ波照射を許す犯人たちのボスとはいったい、手下がかわいくないらしい。秘密を知られているので、癌になっても、いっそ死んでも構わない、そんな意図が透けて見える。
この島では、夕方の6時半になると役場の放送がある。その放送で7月27日と28日に、人権相談会があるとのお知らせがあった。団地内の一連の虐待的な出来事についての相談をするために28日の土曜日に行ってみたが、その日は相談員に会えなかった。二人の警察官の言葉が思い起こされた。本当だ、どうなっているのだろうこの島は。
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