第2話 2015年8月17日 初めて見る縄文杉

第2話

    2015年8月17日 初めて見る縄文杉   乙音おとねメイ


「やあ、来たね!」

そんな意識が伝わった。縄文杉である。

 今思えば、

「君にはその力がある」

と、四千の齢の縄文杉、天使たち、宇宙に、そんな認定を下された日だった。


 家の近所に杉の大木があって、私は「長老の杉」と呼んでいた。その木肌に触れると、手がス~ッとして、癒されることに気が付いたからだった。木の中には、アセンデッド・マスター(*①)の木があると何かで読み、この木はそれにあたると天使に教えられた。

 写真を撮ってみたら、高貴な白いエネルギーを纏っているのが肉眼でも見えた。そして、家から遠隔でコンタクトなどもする間柄になった。近くの公園の若い木々たちのちょっとした心配事についても長老と話した。同じ杉ということから、「長老の杉」を上回る「大長老の杉」である縄文杉とも知り合いになり、そうこうするうちに一者を介して二樹の三存在でエネルギーのやり取りなども出来る間柄に発展した。

 そして今、まさにその大長老、縄文杉と出会ったのだった。

 杉らしい縦の繊維を感じさせる木肌のその太い16.4メートルの幹に、ちょうど三ケ所、ペコちゃんポコちゃんみたいなくりっとした両の目と、ニッコリ笑顔の口が見て取れるのは不思議だ。長い年月の間に枝が自然に打ち払われた跡だろうと思うのだが、それが何とも愛嬌のある顔に見えるのだ。

 縄文杉は、山田洋二監督の『学校Ⅳ』という映画で初めて見た。画面上で見る真面目でシリアスなストーリーの縄文杉より、天使や森の妖精を好む私が実際に見た縄文杉は、写真にも収めたのだが、威厳に裏打ちされた安定感ある優しさが感じられる。人によっていろいろな表情を見せるのだろうか。

「それにしても、展望デッキまで山岳ガイドなしでよく登ってくることができたわね」

と自分をほめてあげたくなる。

 大人の男性の足を横にしてギリギリ収まる程度の小さな板のステップを18センチメートル間隔で組み上げ、高いところでは2メートルくらい続く、そんな階段を何か所も登ってここまで来たのだ。映画にもパンフレットにもそんな情報はなかった。でも、岩肌や崖を登ったりするよりは、よほど親切な設えである。

 それでも、登りはまだいい。帰りは、登ってくる時にすでにうっすらと思っていた通り、階段のあまりの急勾配さに、足がすくみそうになった。天使のダーリンに(手に感触があるようにギュッ、と)手をつないでもらい、大天使ミカエルやラファエル、ロード・ガネーシャにも周りを固めてもらいながら、何とか無事にトロッコ道まで下山することができたのだった。


 ピーク時では登山者が数珠つなぎになるらしいが、その日は、4~5人のパーティーが7組くらいと、他に単独登山者10人くらいすれ違ったように思う。すれ違ったと言うのは、さっそうと歩く単独登山者の後を付いて行ったため、正確には追い抜いたというべきだ。その迷いのない慣れた足取りに、経験値の高さを感じた為、さり気なく30メートルの間を開けて後ろに続かせていただいたのだ。私も普段から足が速いので、その方のスタスタ歩いていく速さに付いて行けるところまで付いて行くつもりではいた。しかし、荒川登山口から30人くらい抜いた頃、トロッコ道を半分ほど進んだあたりで見失ってしまった。きっと、日頃から鍛えている方なのだろう。一度も後ろを振り向かず、ひたすら速いピッチで進んで行くその方に置いてけぼりにあっても、それで足取りが弱ることもなかった。さらに何人かの登山者を後にした。

 湿度の高い苔むした若緑色の世界が、トロッコ道の周りから急流の激しい水音の聞こえる谷底へ、森の奥へと続いている。山の頂から雨で転げ落ちてくる間に摩耗したのだろうか、河原でよく見かけるような丸い石が、山の中のトロッコ道の両脇のあちらこちらに、漬物石サイズから手のひらサイズのものまで散らばっていて新鮮な驚きがあった。小さな石たちは、嵐の日にまた再び下に転がって行くのかもしれない。そうかと思うと、巨大な岩が、その窪みに苔を蓄え、新たな木の芽を育てていた。また、大昔に切り倒された、杉の切り株からも新しい芽が息づいているところも見た。一度創造された自然は、しっかりと前に進んでいるのだ。大自然に触れてみて思ったのだが、人も、人が作ったシステムも、常に、全ての生きとし生けるものへより負担のない方向へと、変化や進化をしていくことはとても自然なことだ。


 縄文杉までの行程では最後となる、名水の出る水飲み場やトイレ設備完備の多少開けた場所に出た。ペットボトルに水を入れている人を数人見かけた。トイレはここに来る前に、もみ殻が自動拡販されて自然に優しいというトイレがあったのだが、足から膝までの長さとトイレの段が合わず、

女性のガイドさんが、

「ここからは、本格登山道ですよ~!」

と、繰り返し声を張り上げていた。なるほど、その地点からは岩の多い急勾配の道となった。

 鞍馬山や高尾山、神戸の低い山ばかり登ってきた私に、この岩のゴツゴツ埋まっている登山道が登り切れるだろうか。少し、不安になった。だが、ちょっと行った所に、有名なウィルソン株があり、空洞になった株の中から、ハート型に区切られた森の木々と空を見たら、新たな元気が湧いてきた。

 それに、ツルツルと黒光りしている木々の露出している根が私を癒した。

「こんなに手垢で光るまで、根に捕まることを許し、人間を助けてくれているのだなあ」

そう思ったら、嬉しくて涙が出そうになった。


 途中でへたばったのか、土中から突き出した出した岩や大きな木の根にしゃがみ込んでいる人もいる。本格登山道に入ってからは、そのような方々5人くらいとすれ違った。

「私はもうここでみんなの帰りを待つわ~」

そんな心の声を聴いたような気がした。その気持ちは、私の頭の片隅にもあった言葉だった。

 羽田から立つ前に、

「これから行きます」

と、縄文杉に挨拶をしていなければ、最後まで頑張れただろうか? 

 それに、途中の木の根や枝にも助けてもらった。縄文杉からおよそ800メートル上の高塚小屋泊して下山する人たち、一足先に縄文杉に会って来た人たちからの、

「もう少しですよ。頑張って!」

という励ましの声がなかったら登れたかどうか、とも思うのだ。

 本格登山初体験の私にとって、これはほんとうに、本当にすごいことだったのだ。


 他に誰もいなければ、神楽殿のお立ち台のような展望デッキから、右前方3メートルほどに鎮座している大長老の杉、縄文杉に、出会えた悦びの舞を踊るところだった!




**************************************

備考~

(*①)

アセンデッド・マスター/スピリットが時空を超えて(肉体を持って)顕現した後、「愛」そのものの覚醒者となった存在。そして、コネクトしている高次元の叡智を伝えて人類をサポートしている存在。        ~文責: 乙音メイ


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