7

 また少し時間が経った。

 やっぱり死んでしまおうか、なんてことを真剣に考えながらお風呂にお湯を張って、湯船の横にへたりこむ。右腕をお湯に浸からせて、入ろうかな、服脱ぐの面倒くさいな、と小さく口にするが、頭ではそんなことまったく考えていない。半袖シャツの袖口が濡れてしまって、気持ち悪くて、それだけが意識に張り付いていた。

 左手が手癖でスマホをつけると、さっきのツイートに1件のリプライが来ている。

「きも……」

 韮林からだった。人の溜息を聞きつけると「どうしたの、話聞くよ?」なんて言って絡むのを常としている男だ。なんでブロックしておかなかったんだろうと後悔する。

 韮林に開く心なんて、私にはないのだ。そんな仲じゃないのは分かっているはずなのに、どうしてこういう時に話しかけてこられるんだろう。無神経。

 私のグツグツ煮えるような思いはしかし、開いて見たリプライの簡素さに肩透かしを食らう。

「これでも見て元気出して!」

 たった一言に、あとは何かのURLが張ってあるだけだった。

 私はもう、なんだかすごく惨めな気持ちになってしまった。韮林にすらこんなおざなりな励まされ方をする、私。

 そしてそのことが、裏返しの事実にも目を向けさせる。すなわち、韮林以外のフォロワーは、私に触れてすらくれないということに。

 関係ない、下らない、と自分に言い聞かせるけれど屈辱は実感的だった。

 でも涙は出ない。ただむしゃくしゃむしゃくしゃするだけだ。

「ねえ……死んじゃいなよ」

 言いながら、スマホを湯に少し浸ける。パチ、パチ、とまずそうな音がして、怖くなって引き上げる。その拍子で、指か水滴かは分からないが韮林の張ったURLに触れたらしく、リンクが開く。

 YouTubeの画面が映る。「のどかなセイグリッド」の声がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る