第15話 後悔と恐怖を越えるのは
恐怖が溢れる感情のままに
走る、走る、走る。
「ハァ・・・ハァ・・・ハアッ」
声が聞こえないぐらいに走って
姿や禍々しく漂う気配を感じなくなってから
恐怖は薄れ思考はクリアーになっていき
俺は今になって致命傷で恐ろしいとんでもない事をしたことに激しい後悔が襲う。
「・・・ハアァ、ハアッ・・・
なに・・・やっているんだよ俺は!
どうしてエリーゼ・・・とホールドを残して
逃げてきたんだよ」
自分だけ逃走したことに強い嫌悪感と
罪悪感に苛まれる。
「タ、タカノリ・・・さん?」
「その声フェイか!?」
下を向き乱れた息を整っている俺は
視線を上げると、木の後ろから姿を現す
フェイ。
「そ、その急に逃げてすみません!」
「い、いやあの状況だから逃げて
仕方ないよ」
「・・・その、わたしがパーティから
見捨てられたのは、この臆病で自分だけ
逃げることが原因なのです。
・・・だから今更になって伝えなくて
すみません!また、同じ理由で
見捨てられるのが恐かったから・・・
ううぅっ!!」
涙を流し自分の失態と罪の意識を
告白するフェイ。
自分の欠点を語るのが怖かったのか
それとも叱責など恐れてなのか
震えていた。または、その両方が
怖かったのかもしれない。
「そんなことで嫌いにならないし、
責めたりしないよ。
・・・・・俺の方が
エリーゼを置いて逃げたんだ」
「え?」
「困惑するよなぁ・・・はは、
今すぐに戻って行きたいのに、怖いんだ。
どうしようもなく、怖いんだ!」
「・・・・・」
(そうだ。怖いだけで異世界で最も長い
付き合いで相棒のような存在のエリーゼを、
絶対に一緒に最後まで戦って笑って
・・・・・その関係を俺は置いて逃げたことで終わったんだ!
エリーゼがどう想おうが、もう俺がしたことは自分でも許せないんだ・・・
たかだか、怖いだけで!)
自分の
エリーゼに一緒にいることが相応しくないと
思えてくる。
「怖くて当たり前ですよタカノリさん」
「・・・フェイ?」
彼女は俺を励まそうとして、優しく微笑む。
頬には涙の一粒が流れていた。
「わたしは・・・もうこのパーティにいる
失格はありません。ですから
出ていきます。
タカノリさんは、どうするのですか?」
「・・・俺?」
パーティを出ていく?それを一緒に
誘っている?そんな事をどうして笑える!?
衝撃的な言葉の数々に処理ができないし
一体どう思ってそんなことを言っているのか
理解が出来ない。
「今からエリーゼさんのために戻って
戦いに行きますか?」
「・・・・・俺は!」
エリーゼに会う資格なんて・・・ない。
この結論は極端なんて
自分でも分かっているが
感情が・・・俺が抱く想いはそれを
許したりしない。
「たぶんですけど、ホールドさんや
エリーゼさんが頑張っていますし、
なんとかなりますよ。
だから・・・これから
わたしと一緒に・・・・・」
「ごめん!」
「・・・・・・」
遮る形で俺は、頭を下げ謝罪をする。
真のメインヒロインのフェイの甘い言葉に
俺は心にまったく響かなかった。
その事と行けないことを含めての謝罪。
「俺には・・・・・エリーゼを見捨てて
しまった。でも、それでも
このまま戻らないのは・・・ダメだと
思うんだ。だから・・・ごめん!」
俺は踵を返し遁走した方向に
エリーゼやホールドが今でも戦っている
であろう場所へと全力で向かい走る。
・・・・・どこまで走っても声や戦闘が
聴こえない。
(フェイは、俺の行動にどう思ったのかな?
呆れているか、失望しているのだろうか)
森が深くなる場所を足を蹴って跳躍して
振り返れず走る中に、そう考えていた。
(不思議と真のメインヒロインを誘いを
断ったのに後悔がまったくない・・・
それと、フェイがあんな仲間を見捨てるような発言にも不思議と怒りは・・・
少しだけあるのみ)
耳を澄ませダッシュしていると、
明らかに慌てた靴音がした。
そちらへ向かうと―――
「・・・どうして、こんなところに・・・」
「ハァ、ハァ、ハァ。タ、タカノリか?」
パーティのメンバーの一人ホールドが
息を切らし休んでいる所を発見した。
「ホールド!エリーゼは?」
「あ、ああ。あっちで、今でも戦闘を
しているよ」
「そうなのか。・・・でも、ホールド
どうしてこんな所に」
「に、逃げて来たんだ。あんなの真正面で
戦える勇気がなかったんだ!」
「それでも騎士なの―――」
その答えに頭が沸騰して激昂のまま
言葉としてぶつけようとしたが
俺も逃げたのだ。
それは、痛いほど理解している。
それよりもだ!
ホールドが逃げたことはエリーゼが
一人で今もドラゴンと
戦っていることになる。
俺は、ホールドが抜け出し指を差した
所へと地面を蹴り走る。
「くっ!」
「その・・・すまない!俺にはもう
行くことができないんだ!!」
それは、理解していた。短い関係の仲間に
命を掛けることはできないからなぁ。
しかし、俺は違う。
俺にはエリーゼが・・・大事な存在なのだ!
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