第2話 もう勇者なんてやりたくない!

運命的な出会いから半年も経過。

そして今の俺は全力で逃走中。


「ハァ・・・ハァ!」


「ほら、早く走って!」


(くっ、これ大変なんだぞ

エリーゼめぇぇぇ!)


剣の心得がないため、俺は

囮役おとりやくと誘導役に

された。


エリーゼは、魔法詠唱をすでに終え、

ベストポイントまで誘引してほしいと

木の陰から指示が飛ぶ。

後方は楽そうで羨ましい限りだよ

エリーゼ。


追い駆けてくるは、黒い獅子の魔物で

勇ましく吠える。ときどき追いつかれ足に噛まれ、痛い。


「はぁ、はぁ・・・クソ!

どうして・・・はぁ」


(どうしてこうも勇者は

重労働なんだ。

最初に召喚された頃が懐かしいぜ!)


半年という流れは10代には長い。


その流れの変化に関係は激変。

あの可憐だった

メインヒロインどこに行ったのか?

痛い痛い!足を噛まないで。


(くっ!戦いたいが、

俺はレベルや力のステータス

あってもこの剣術じゃ、倒すのが

やっとだし、

悪戦苦闘するから攻撃はエリーゼ。

従うけど、次は変わってもらう。

前方は、エリーゼに向いている)


本来、色々と間違っているのだ。

役目とかジョブとか。

樹木が生い茂る場所から、走り続けて

ポカリと穴を空いた場所に着く。


「誘導した!やってくれエリーゼ」


「フフ、よくやってくれたわ。いずれ伝説と

うたわれる魔法使いわたしの魔法に刮目かつもくしなさい!」


魔法の杖の先端に取り付けた宝石の類となる。石は輝き、そして――


「「グガアアァァ」」


「あ、あれ、これ巻き込まれない?

・・・ギヤアァァァ!?」


エリーゼが使うは、基本中級魔法。

属性は炎の【フレイム・ブレス】。


てのひらを向け、炎の奔流が

黒い獅子を呑み込む。


熱量に本能的な危機を

感じたようで、逃げようと

後ろへ駆けながら悲鳴を上げる。

しかし、遅かった。


すべて灰へと成り果てる。


「やっぱり・・・魔法はスゴイなぁ」


余波よはで、飛ばされ

地面と顔をくっつけた俺は立つ。


派手な一撃を裏切らない威力。これが

中級魔法なのだからスゴイと

何度も思う。


「そう?こんなのできるのは、だれかの助けがないと、

できないでしょう?」


しかし、なんの高揚感が

ないようで大したことじゃないと

言う。それには反論がある。


「それだけ、価値があるんだよ!

数時間で倒さないといけない魔物を

数発で倒せるうえに

周囲も巻き込め、さらには

経験値を稼げてタンクの

リスクも減るんだ!」


「はい、はい。なんの為にならない

力説はいいから」


「・・・えっ?理論的だと思うけど。

なら、エリーゼはどんな効率で戦術が

あるのか、お聞きしたいですね」


「それは決まっているでしょう。

勇者が華麗に次々と剣さばきで

倒して、

わたし・・・その相棒の魔法使いが懸命に

凛々りりしく戦うのよ」


拳をグッと目を輝かせ理想を語る。

エリーゼに戦術や

効率なんてわかるわけがないか。


「そうか?勇ましく叫び声を上げて

嬉々とした表情で

敵をほふっていき、

愉悦を覚えた魔法使いにしか

見えませんでしたが?」


「あ、あなたねぇ・・・

普段のわたしが

猟奇的な見たいに言わないでよ!」


否定したが、どこか弱々しい・・・

心当たりあり!?


目を細め、威圧攻撃するエリーゼ。


美少女が睨まれると恐いと言うが

黒い獅子に危うく

えさにされるのではと比較

すれば、逃げている方が数段上だ。


「そろそろ、限界だと思うんだ。

いい加減こだわりを一時的にだなぁ・・・

っ―――!!エリーゼ」


俺はエリーゼの肩に強く押す。


「えっ?キヤァァーー!?

・・・・・うぅ~折角せっかくの魔法ローブが。いくら

苛立つからって、

暴力はどうな・・・の」


尻餅がつく音。

非難の声は中断したのは、黒い獅子

が俺の剣に鋭い牙で

砕こうとする光景に驚いているのが

見なくとも分かる。


息を飲むエリーゼは立ち直り、

無詠唱でフレイム・ブレスを放つ。

黒い獅子は腹部に命中して

飛ばされる。


前よりも威力、規模が無いのは

無詠唱むえいしょうだからだ。


詠唱を放棄した代償に

発動した魔法はどうしても

大幅に威力や大きさなど

著しく落ちる。


そのため、灰にならなかった。


「タカノリ・・・その、ありがとう。

おかげで、助かった」


「それは、どうも。そして此方こちらこそ助かったことに感謝するよ!

・・・あの魔物が一体で

決して襲ってこない。エリーゼ、

周囲に警戒をしろよ」


完全に油断していた。

そういえば集団での奇襲が

得意だったなぁ黒い獅子は。


剣を振るうのは苦手だが

倒さなくてもエリーゼの

魔法詠唱時間を稼ぐことはできる。


いつもそうやって来たのだから

今度も。


「タカノリ・・・ちょっと窮地きゅうちに追い込まれたかも。後ろに

あふれている」


「あふれている?そんなこと・・・

あっ、あふれている!」


茂み中から、木の上からも現れる

そのありさまは、あふれる。

気づけば囲まれた。


「エリーゼ!この数だと流石に守りきれないので自分で守ってほしい」


「了解・・・えっ、ハァ!?

なによそれ!

魔法使いは接近戦なんてできるわけ

ないじゃない!」


この異世界はジョブで得るものない。


技や魔法が、レベルアップすると

自然に覚えるとか

使えるわけではない。


自力で努力して得るしかない。

ジョブらしさが、あるといえば装備。

普通にその戦闘に適した装備だけ。


さて、エリーゼの装備は

魔法ローブと魔法の杖。

接近戦は、不向き。


エリーゼはできないと

怒るのは最もな理由だ!

しかしエリーゼはできる。


「そういうわけで、頑張ってくれ

エリーゼ。君はできる、立派な勇者だ!」


エリーゼを守らずに俺は、

最も数が少く包囲から

突破できる穴を見つけ、

活路を開くために突撃する。


「あぁーー!!本当に行った!

本当に自分の身を守るのは自分だって

・・・ボイコット、ロクでなし!

最低!?」


俺の独断判断に

エリーゼ恨み言を言って

無詠唱で黒い獅子に迎撃。


エリーゼなら、俺のような勇者なんていなくても心配ないだろう。


俺が包囲を突破すると、

追ってくる黒い獅子。

そしてエリーゼと距離がどんどん

出来て俺は走る。


「・・・これだけは、使いたくなかったけど、四の五のしのごの言えないよね」


エリーゼそう呟き雑嚢ざつのうから、取り出す。戦闘で突然の行動に

魔物は訝しんでいた。


白銀のさやを抜き

表れるのは白銀の剣。

このサイズの剣を収納できた雑嚢。

もちろん普通は入れない。


しかし古代魔法遺産の一つで

収集が異常。

それが雑嚢よりも大きいサイズ

だろうと。


「これは、魔王や幹部じゃない。

だから

わたしが剣を振るってもセーフ」


「グルル・・・・・グゥ!」


黒い獅子は剣を持ち逡巡しゅんじゅんするエリーゼに禍々しく爪で裂こうとする。


「今だけはこの剣で戦うから!

ええぇぇいいぃぃぃやあぁぁ

ぁぁーー!!」


敵の爪を横に90度へ体を

曲げて避ける。


敵を袈裟斬りけさぎりで倒す。斬った速度を落とさずにU字の傾いた斬撃で同時に襲ってきた

獅子をあっけなく両断。


「クウウゥゥゥゥ!?」

「グルルルウウゥゥ!」


エリーゼ後ろへ跳躍をする。

跳んだ相手を襲おうとする

黒き獅子の集団。


「手に取るようにわかる。わかるから

つまらないよほんとうに・・・

ハァー」


「ギャャアウゥン・・・」


追撃してきた相手に目にも追えない

緻密で絶対的な斬撃の嵐で死屍累々ししるいるいの山を築く

エリーゼはため息。


異常な剣のさばきにようやく

敵わないと本能で感じた魔物は、

恐慌きょうこうで、動けなくなる。それが、愚かな選択で次に

反省する機会はないだろう。


「これで、終わり」

「ギャウン!ギャウゥン!!」


もはや、攻撃せず威嚇いかくする

だけの黒い獅子の群れ。


エリーゼは、一匹、一匹と

確実に迅速に慈悲なく

斬っていく。もはやその光景は

公開処刑のようだった。


そんは無慈悲なのに華麗で心を

奪われる光景。

最後を倒しエリーゼは、息を吐く。


「いやぁー、相変わらずの恐ろしい

剣術だったよ。

ご苦労だったエリーゼ」


「・・・ふーん。あの数を

わたし一人に押し付けるようにして!

タカノリは、少ないレオーを

倒したわけねぇ・・・ふーん」


片付いた俺はきれいな剣の刀身で鞘を収める。エリーゼの剣はあの黒い獅子

血で刀身は汚れていた。


半眼のエリーゼは、

自分のと俺の刀身を

比較するように交互に視線を動かしていた。い、イヤな予感がする。


丁目ちょうどよかった!わたしって、まだ戦闘に飢えていたみたいなの?」


物騒な事を言って、

鞘を収めず剣を中断に構える。


それは、中央に剣を前に向け両手を柄に握るオーソドックスな構えだ。


「そ、その敵はいないのに

エリーゼさんはなにを戦いで?」


「ついでに、タカノリの剣術の

鍛錬たんれんに。

模擬戦だから、安心してわたしに斬りかかっていいわよ。でも、わたしが飽きるまで

付き合ってもらうけどね」


満面な笑顔を向けるエリーゼ。

年下なのに

なんて恐ろしい表裏をしている!?

実際は裏では怨嗟で乱心しているのが知っているから恐い。


「エ、エリーゼ・・・様はお疲れ

でしょう。うん。

きっとそうであるはず。

だから、無理はしないで

魔法を見たいなぁ

と考えています!」


「最初の弁明から・・・

途中からの願望か。

フフ、少し本気で行くから

頑張ってねぇ」


後ろから禍々しいオーラが

メラメラと燃えている・・・

ように見えた。


最初に会った頃のエリーゼは

頬をすぐに赤らめて可愛い笑みを

浮かべる

天使爛漫な美少女だったのに。


表は天使の笑み。

裏は地獄のほのお悪鬼羅刹あっきらせつな美少女へと変貌したのだ。


「それじゃあ・・・まずはこれ!」


エリーゼは、走る。

斬撃を防ごうと警戒するが、

鳩尾に痛みが・・・

どうやら足を入れられ俺は空へ

飛ばされる。


「あーーーれーーー!!?蹴りだけで

こんなに飛ばされるものだったけ?」


放物線へ描くように落ちる。

落下した俺に

エリーゼの苛烈なる攻撃を

一方的に受ける。

もう勇者なんてやりたくない!

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