第3節

 待て、どうして俺はどちらか一方しか選べないと決めつけている?


   

 貪欲を自覚しておきながら、どうして片方をみすみす取り逃すことを容認していた? 



 どちらを選ぶべきかと考えるから悩むのだ、どちらも選ぶのなら悩む余地など存在しない。――俺は今、清楚と巨乳、その両方を手に入れることの出来る、たった一つの冴えたやり方を思いついた。



 俺は路地裏へと駆け出した。同時に尻ポケットに手を突っ込み、そこに財布があるのを確認する。間に合ってくれよ……!



「待ちな!」



 俺は二人の前に颯爽と登場した。



「なに、アンタ」



 不良少女は俺を睨んだ。睨んだ顔も、かわいいのだね。俺は壁ドンをしている彼女の左腕を掴んで壁からはがした。そして渾身のキメ台詞を放つ。



「お金なら払います。だから見逃して下さい」



 ――決まったな。



 こいつが俺の導き出した、たった一つの冴えたやり方だ。

 


 本当ならこの金で不良少女を買ってしまうのが手っ取り早いが、いくらこの場を助けてもらったといっても、買春現場を目撃したとあっては、さすがの清楚少女も俺に惚れるのは難しくなるだろう。だから単純に不良少女には金でアピールするだけに止まる。金をくれる男に惚れないわけがない。

 


 さらに敬語にすることによって清楚少女からの印象もアップだ。きっと乱暴な言葉遣いは好きじゃないだろうからな。いや、もしかしたら男らしい粗っぽさがお好みかもしれないが、それは後でも修正出来る。寧ろギャップ萌えでより好印象だ。



「……なんだか知らないけど、金くれるってんならいいや。こいつにはもう興味ないし」



 分かってくれたようなので、俺は彼女の腕を話し、財布を取り出した。

 俺は財布を開きながら、



「ねえ君、氏名と年齢、それから住所と電話番号、出来れば通ってる学校名を教えてくれるかな――」



 スリーサイズは聴くまいよ。いずれ分かることだ。ここで質問しないのは実にスマートだぜ。――と、俺はここで異変に気付いた。



 ――こいつは子供銀行券じゃあねえかッ!



 本物の諭吉じゃねえ! それも、十枚とも全部だッ! 


 

 くそッ! 見栄で入れていたことをすっかり忘れていたぜ、俺としたことがッ!



 俺は分かりやすく表情を変化させてしまったのだろう。不良少女は俺に訝し気な視線を送る。

 ――頼む、気付かないでくれ……っ!



「……ねえ」


 バレたか!?


「こんなにくれるの?」


「……ああ」


「やった! ラッキー!」



 バレずに済んだらしい。不良少女は俺から子供銀行券十枚をふんだくると、駆け足で去っていった。

 


 ……しまった! 氏名、年齢、住所、電話番号、学校名、全部聞き忘れた! チクショウ、だが俺にはまだこの娘が居る。

 


俺は視線を横に逸らした。そこにはまだきちんと清楚少女が立っていた。俺は安心した。話しかけようとすると、向こうから話しかけてきた。



「あ、あの、助けていただき、ありがとうございます」


「いえ、当然のことをしたまでですよ」


 ――イケるか……?


「出来れば、お礼をしたいのですけど……」




 やったぜ。巨乳は逃したが清楚は手に入れられた。最悪の事態は避けられた。今回は惜しかったが、きっとまた次のチャンスはやってくる。ファイト俺! 落ち込むな! まずは目の前に集中! 押忍!



「じゃあ、これからお茶でもしながらお話でも、今後について」


「そうですね。それが良いでしょう。ただ、私さっきのことで疲れてしまって、出来れば横になれる場所が良いです。あと汗も搔いたのでシャワーを浴びたいですわ」




 見た目によらず積極的じゃないか。まあ、そういうことにしておいてやるぜ。これが女心ってやつかな。



「それじゃ、いい場所を知ってますよ。べんきょう部屋っていうんですがね、なに、ホテルの名前ですよ」


「まあ! 素晴らしいですわ。是非行きましょう」



 よおし、真昼間から美少女とホテルで運動会だ。椅子に座って習うだけで、他のスポーツと違い実技が無いのがおかしいと思ってたんだ。俺が教えてやるぜ。こいつは先生には任せられないもんな。

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