最終話

 翌日、ナツは公園にいなかった。次の日も。その次の日も。

 一週間経っても現れなかったことで俺はようやく彼女がこの世からいなくなったことを認めた。


 補講が終わっても毎日外出するから恋人でも出来たのかと妹に誤解されたのはまた別の話だ。


 ナツがいなくなった後、俺はあの公園について色々調べてみた。すると一件それらしきものがヒットした。


 二年前の夏、公園にトラックが突っ込んで女性が一人亡くなった事故があった。その人の名前は月代沙也香。写真を見るにナツと同一人物だった。


 名前は捨てたのか、忘れたのか。今となっては確認しようがない。







「暑っつい...」


 夏は過ぎても残暑がある。体感的には何も変わらない。


 全く、始業式の日からテストを行うとは一体何事だろうか。おかげで今学期も無事死亡が確定してしまった。今度校長に直談判しに行こう。留年はやめて下さいって。


 ダメだ。今日はもう水筒を飲み切ってしまった。どこかで水分を継ぎ足さねば。


 辺りを見渡すと目の前の公園に自販機があった。こんな所に自販機とは。これはちょうどいい。利用させてもらうことにしよう。


 .....虚しくなるだけだな。このノリでいくのはやめよう。

 ここを通る度に否が応でも思い出してしまう。忘れることなんて出来ない。これから卒業して、ここを通らなくなったとしても、記憶の片隅にはずっと残り続けるだろう。


 カバンから財布を取り出すと硬貨を1枚ずつ投入していく。ボタンが赤く光ったところで指を伸ばす。


 その瞬間、後ろから指が伸びてきてそのままボタンを押した。


「なっ.....」


 慌てて後ろを振り返ると



 妹がいた。


 奴は何事も無いように出てきた炭酸ジュースを手に取ると、そのまま飲み始めた。


「おい」

「.....おかえりお兄ちゃん」

「ただいま。じゃなくて」


 思わず乗せられてしまった。


「それ、美味しいか?」

「うん!とっても!」


 その笑顔で言われると何も返せなくなるから卑怯だ。きっと将来はモテモテになるんだろうな。


 そしてどちらから言い出すこともなく歩き始める。道中、話題に上がるのは学校であったこと。俺は基本的に聞き専になり、たまに相槌を打つ程度。

 ああ、夏休みは終わったんだなぁ。



 ねえ、貴方は今どこにいるのだろう。ちゃんと天国には行けたのだろうか。上から「君、ちゃんと勉強しろよ。妹は可愛いじゃないか」とか言ってるだろうか。.....いや、あの人はそんなこと言わねぇな。


 いつかまた巡り巡って貴方に出会えるのを期待して、俺は今日も歩き続けます。


 それまで、さようなら。


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夏とペットボトル 才野 泣人 @saino_nakito

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