第2話

「あっつい」


 相も変わらずの猛暑日。こんなのがあと一週間も続くとかやってられたもんじゃない。


 昨日の反省を活かして今日は水筒を持ってきた。これで飲み物を取られる心配はない。


 例の公園のところに差しかかる。いつ見ても子どもが遊んでないのは何故だろう。暑いからかな。

 そりゃ俺だって本当ならクーラーの効いた部屋でゲームしながらダラダラしているはずだったんだ。


 ...いた。同じ格好で、同じ場所に、同じ人がいた。

 あ、目が合った。こっちに気づいたナツは

 手招きして俺を呼ぶ。


 ここで無視しても良心が痛むな。少しだけ付き合ってあげよう。

 それに昨日話してみて彼女が悪い人とはあまり思えなかった。気楽に話せたし、少なくとも嫌な気待ちはしなかった。


「また会ったね」


 ベンチに腰を掛けるや否やナツは話しかけてきた。


「またいるんですね」

「そりゃ精霊だもの。いつでもどこにでもいるさ」


 もう何も突っ込まないことにした。彼女は精霊。そういうことにしよう。


「仕事とか大丈夫なんですか?」


 ここまで言って自分が悪手を打ったことに気づく。


「精霊は精霊であることが仕事さ。だから今も仕事してる最中だよ」


 予想通りの答えが返ってきた。まぁつまりは無職と。そりゃ平日の昼間っから公園でぼーっとしてる人なんて大半がそういう人だよな。


「それより君、今日は飲み物を買う予定はないかい?」

「残念ながら水筒を持ってきてるんです」

「それは本当に残念なことだ」


 サラッとまた奢らせようとしたぞこの人。悪い人かもしれない。もしくは金欠のニートか。後者だな。


「ナツはここで何をしてるんですか?」


 昨日からずっと疑問に思っていたこと。何故ナツはこんな真夏日に公園にいるのだろう。時間を潰すなら図書館とか他に涼しい場所があるだろうに。


「プライバシー侵害」

「っ...」


 完全に昨日のことを根に持ってやがる。タチの悪い意趣返しだ。

 現にナツの顔が半笑いになっている。


「冗談だよ。君を待っていたんだ」


 苦虫を噛み潰したよう顔、とはきっとこのようなことを言うのだろう。鏡を見なくてもわかる。


「これも冗談」


 彼女の冗談はいちいち神経をすり減らしてくる。やはり関わったのは間違いだったか。


「まぁここにいることに意味なんてないよ。することがないから気分でいるだけ」


 気分でこんな暑い場所にいるのか。変だ変だとは思ってはいたけどまさか本当に奇人だったとは。


「それより君...」

「晴人」

「は?」

水上晴人みかみはると


 鳩が豆鉄砲を喰らっていた。


「どうしたんだい急に」

「ただの気まぐれですよ」


 ナツの顔を見るととても粘着質な笑みを浮かべていた。


「なんですかその顔」

「別にぃ。なんでもないよ」


 話し方まで粘っこくなってやがる。彼女だって自分のことをベラベラ話してるんだ。自分だけ黙秘って訳にはいかないだろう。


「じゃあ晴人はどうして学校に行ってたんだい?」

「補講ですよ。一学期サボりすぎて単位が危ないから」


 あくまでも成績のせいでは無いことがポイントだ。


「そんな可愛い見た目しといて中身はワルなんだね」


 余計なお世話だ。


「補講はいつまで?」

「来週の水曜までです」


 ちなみに今日は火曜。1番苦手な数学の日だった。


「もし良かったさ、君の補講が終わるまでま話し相手になってくれないか」


意外というか予想通りというか、彼女はそう切り出してきた。別に夏休み中に目立った予定は無いし、二、三十分程度話すくらい構わないだろう。


「いいですよ」

「本当か!?」


 予想外に大きな喜びを見せる。悪い気はしない。


「それじゃお昼もまだだし、今日はもう帰りますね」

「そうか。じゃあまた明日な」

「はい、また」


 こうして俺達の奇妙な関係は始まった。



 翌日から俺は学校が終わる度に公園に向かった。


 ナツはいつもそこにいた。変わらない服装で。一体あのワンピース、何着持っているのだろうか。


 彼女とは他愛もない話ばかりした。どの先生が嫌いだとか趣味がどうだとか。


 ナツは結局自分を精霊のままで貫き通した。一回もボロを出さなかったところは逆に凄いと思う。全くどこに力を入れてるんだか。


 そうして光陰矢の如く日々は過ぎていき、補講最終日となった。

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