童話:短編小説シリーズ

神代陽葵

ずきんの少女と優しい狼

ずきんの少女と優しい狼


 1.ずきんの少女と優しい狼


むかしむかし、あるところに人々から恐れられている狼がいた。しかし、その狼は実はとても、とても優しくて人間を食べるようなことはしなかった。しかしそれは人々にとっては知らない話だ。彼らにとっては狼は人々を襲う悪い生き物でしかなかったのだ。そのため狼が住んでいる森には誰も近づきませんでしたし、狼も森から降りてくることはなかった。狼はずっと森で一人ぼっちだったんだ。








 狼は森で自分の食べる分だけの最低限の動物を狩って食べていた。動物を狩って、感謝して昼ご飯を食べたら、いつもの日課の散歩の時間だった。狼はわりと森の中を散歩して歩くのが好きだった。自然の変化や動物たちなどが行きかう様子をみるのは狼のなによりの楽しみだ。今日も狼はゆっくりと森のふもとから奥まで散歩をする。動物たちは狼の姿を見てしまうと怯えて逃げてしまうので遠くから観察をするだけだったが、それでも狼は充分に満足だった。森を一周して自分の住処まで戻る途中に彼は驚くものを見つけ思わず目を見張る。なんとそこにいたのは人間の子供だ。こんなところに人間の子供がいるなんて、迷い込んででもしてしまったのだろうか。そう思い驚かせて追い払おうと近づく。しかし、近づいたところで彼女の様子が変なことに気づいた。彼女はうずくまって泣いていたのだ。これじゃあ驚かせずらい。そう思いどうするか悩んでいるところ彼女も狼の存在に気づく。彼女は狼を見て怯えると思いきや見た瞬間泣くのをやめて顔をパーッと明るくした。そして言う。

「わぁー!狼さんだあ! この森には本当に狼さんがいたんだね」

 あまりのことに面食らう狼。喜んだ彼女が触ろうとしてそれをよけづつけていたが、ついには少女に捕まえられてしまう。いくら暴れても放してくれない少女に狼は耐え難くなりついに怒る。

「いい加減にしろ! 俺様はお前のペットでもないんだぞ。早く俺の目の前から去らないとくっちまうぞ」

 それを聞いて彼女は一瞬驚いた表情を見せたがまた笑顔に戻っていった。

「わあー! 狼さん言葉も話せるんだね! すごいや」

 先ほど怒ったことがまるで効いて無いようだった。それどころか食べてしまうといったにもかかわらず怯えてる様子もない。人間の子供はどれだけ無鉄砲なんだろうと狼は思った。どれだけ脅しても無駄だと思った 無駄だと思った狼は深いため息をついて言った。

「もうわかったから満足したらさっさと俺様の目の前からいなくなってくれ。俺様はガキのおもりなんてしている暇じゃねーんだ。早く居なくならねーと食っちまうぞ」

 ぶっきらぼうにそういった。脅せばいなくなろうと思っていた。実際、自分の姿を見て逃げないやつはいた。子供に多かったがそいつらには先ほど見たく大きく口を見せて食っちまうぞといえばみんな慌てて逃げて行った。しかし、彼女は逃げない。どころかいくら脅しても怯えることもなくニコニコとしている。これには狼も困ってしまう。その女の子は言う。

「私はアン。ねえ、狼さん。私と一緒に遊びましょう」 

 それを聞いて狼は困惑した。そんなことをいままで言われたことなかったからだ。いくら脅しても、帰れと言っても聞かないアンに狼はあきれて諦める。

「じゃあ、少しだけだからな。すこし遊んだらちゃんと帰れよ」 

 と言って、狼はアンの遊びに付き合い始めた。アンは鬼ごっこをしようと言い出した。アンは子供ながら、いや子供だからこそとても活発で元気がよく普段野生の動物を狩るため使っている足でもなかなか彼女に追いつくことはできなかった。しばらく遊んだがさすがにアンは疲れたのか休憩と言って座り込んで言う。

「はー疲れた。狼さんやるね。村の中でも私の運動神経についてこれる人はなかなかいないのに」

「おまえこそおかしいだろ。なんで人間が狼と同等に張り合っているんだよ」 

 全くと、狼は悪態をつく。でも彼は不思議と悪い気はしなかった。それどころか、楽しいとまで思っていた。

「なあ、人間。喉が沸いただろ。ついて来いよ」

 狼は唐突にそういうと歩きだす。彼が連れていったのは川だった。

「ここの川の水は綺麗だから飲め」 

 アンはそれを聞くとその水で水分補給と顔を洗って笑顔で言う。

「ありがとう。狼さん」

「ふ、ふん。人間は貧弱だからな。こうでもしないと死んじゃうだろ」

 アンに笑顔でお礼を言われた狼は照れたようにそういうとそっぽを向いた。狼はついでに疑問に持っていたことを聞く。

「ところでなんでお前はこんな森に迷い込んでいたんだ」

「じつは。私友達のマインちゃんと喧嘩しちゃって。それでどうすればいいか分からなくなって村を抜けて走ってきたら、いつの間にかここにいたの」

「はるほどな。友達と喧嘩した不安と道に迷って泣いていたわけか」

 アンの顔を見たら思い出してしまったのかまた泣きそうな顔をしていた。

「マインちゃんが私が貸した青色のずきんを無くしちゃって、私まいんちゃんに嫌われちゃったのかな」

「それでマインちゃんは必死に謝っていたんだけどあれは大事な形見だったからついつい本気で怒っちゃって」

 今にも泣きそうなアンの顔を見て狼は言った。

「まあ、俺はこんな動物だから友達とかもったことないから分からないけどよ。大丈夫だとおもうぜ」

 それを聞いたアンは驚いて顔をあげた。

「だって、本当に嫌いならきっと俺様みたく無視されて避けられるからな。まだ喧嘩できるだけましだと思うぜ俺様は」 

 ふたりがそんな話をしていると遠くから誰かを呼ぶ声が聞こえてくる。アンを呼ぶ声だ。それ聞いた狼は言った。

「ほら、お前の仲間が心配で探しに来てくれているぞさっさと村のもとへ帰れ」 

 そういって狼は振り向いて去っていこうとした。

「ねえ、狼さん。また私ここに来てもいい」

 アンはそう問いかけると狼は振り向かずに好きにしなといった。村に帰ると喧嘩をした 

マインが不安そうな顔をしていたがアンを見つけた瞬間安心した顔になりこちらへとかけてきてアンを強く抱きしめた。アンとマインは再開した時に真っ先に言おうとしていた言葉を同時に口にする。

『あの、この前はごめん』

 お互い同じ言葉が同時に出てきて呆気にとられる。お互い気まずく黙っていたがマインが切り出した。

「心配したよ。だってアンタ森の中に言ったって目撃情報が出てたから村中が大騒ぎよ。あんな危険なところにひとりでいくなんて」

「何も危ないことはなかったよ。だってそこにいたのは優しい狼さんだけだったし」

 狼という単語を出した瞬間マインの顔が青ざめて行った。

「あんた。狼にあったの。だから危険だって言ったのに! 大丈夫? ケガしていない?」

「大丈夫だって。狼さんはとても優しかったし。なにもされていないよ」

 アンが狼のことを弁解してもマインはそれを信じてくれる様子はなかった。

「かわいそうに。狼を見て驚いて混乱をしているのね。今からアンタのままに言ってきてあげるから村の病院に行きましょう」

 まったく信用されないのを見てアンは察した。そうか、私は一度会ってるから狼さんには別に恐怖ではないけど。みんなはそれがわからないのか。少し寂しい気がするけど狼さんのことは誰にも話さずに黙っていたほうがいいのね。とそう思った。彼女はすぐに病院に運ばれたが正常でどこもけがをしていないと判断された彼女はすぐに帰される。家に帰って自分の部屋で一人でつぶやいた。

「このことは私だけの秘密。これは狼さんの普通の生活を守るため」

 それから彼女は時々村を抜け出して狼に会いに行くようにした。村の人には とごまかしていたため特に怪しまれる様子もなかった。森に入るときはきちんと誰にも見られていないか警戒するようにして森に入るようにした。 何度も彼女が来るようになって、村の色々な話を聞かせたり、狼と遊んだりするようにしているうちに最初はしぶしぶだった狼もだんだん心を開くようになっていた。そしてある時に狼はアンに聞いた。

「なあ、なんでわざわざ俺様にかまうんだ。お前は聞く限り友達が多くて村で遊んで退屈しないだろう。なのになんで俺様みたいなのと」

 それを聞いて狐につままれたような顔をしたがすぐに笑って言った。

「もう、狼さんは卑屈だな。そんなの狼さんと遊ぶのも楽しいからに決まっているでしょ。ほかに理由なんてあるの」

「だけど。お前さんたちと俺様は人と狼なんだぞ。村の人間の連中が言っているようにお前さんを食べちまうかもしれない」 

 しかし、赤ずきんは狼に抱き着くというのだった。

「狼さんはそんなことしないよ。だって狼さんはとっても優しいから。村のみんなはまだ狼さんのいいところに気づいていないだけだよ。きっといつかみんなわかってくれるって狼さんのこと。そしたら皆に狼さんのことを紹介してあげるから」

 といいながら狼のことを抱きしめるアン。

「わかったから俺様から離れろ! 暑苦しい」 

 暴れる狼を見て赤ずきんははやし立てるように言う。

「ああー! 狼さん照れてる。かわいい」 

「う、うるさい! いいからお前さんもさっさと帰れ。そろそろ戻らないと心配するぞ」

「ねえ、狼さん。また来てもいいよね」

 赤ずきんは満面の笑みで言うと狼はため息をついていった。

「好きにしろ。どうせお前さんはダメって言っても来るんだ。諦めた」

 彼女が帰った後に狼は彼女の言葉を思い出していた。狼は今まで一人ぼっちだった。ゆえにそんなことを言ってくれる人は今までいなかった。だからうれしかったのだ。そんなことを言ってくれる人が、種族が違えど自分を大切にしてくれる人が現れたことが。

 そして冬になった。冬になると森の動物達は冬眠を始めるので狼は食料を狩ることが出来ずらくなる。彼はどうしても食料が足りない場合は最終手段として村の食料をこっそりと拝借することだったがあまり気が進まなかった。以前ならもっと気軽に食料を取りに行けたのだがあのアンに会ってしまいあのアンの村だと知っているからだ。しばらく狼は思索したが何も良い案が浮かばなかった狼は仕方がないかと腑に落ちた。

「まあ、見つからなければいい話だしな」

 そう自己完結させて狼は少しの食料を取るために村へと足を進めた。狼が食料を取るときは時間にも気を付けていた。経験上夕方から夜までの時間はみんな家に帰って家事をすることが多いため食料を調達しやすかった。作物から少しづつ取って帰ろうとしたが帰る途中に人がこちらに歩いて来るのが見えた。狼は慌てて草木に隠れてやり過ごすとする隠れている途中近くで人間が話しているのが聞こえたようだ。

「なあ、まもなくアンの誕生日だな」

「ああ、そういえばもうそんな時期か。今年は何をプレゼントしようかな」

「早いなあ。おてんばだったアンもまもなくだもんなあ」

 誕生日というものは狼はアンから話を聞いていた。ゆえに誕生日祝いでプレゼントを用意して祝ってあげることも狼は知っていた。狼は思う。

「そうか、あいつの誕生日かそれはいいことを聞いたな」

 彼はアンに日頃の感謝をしようと誕生日プレゼントを渡そうと考えた。しかし、彼はプレゼントなんて初めてだし何をプレゼントをしないといけないなんてまったくもってわからなかった。困った狼は一晩中考える。そこで狼は最初に赤ずきんと会った時にずきんのことで友達と喧嘩をしていたことを思い出した。つまり新しいずきんを作ってアンにプレゼントすれはアンは喜ぶんじゃないかと考えたのだった。早速狼はずきんを作るためにばれないように村に降りて材料を補充した。幸いどんなものかとかはアンから聞いていたし、アンと遊ぶときいろいろ教わったがその中に裁縫も含まれていたので作れると思っていた。しかし狼が考えるほど現実は甘くなかった。

「痛てえ。また針で刺しちまった」

 なかなか裁縫は進まずに狼は手をけがしてばっかりだった。裁縫中にアンが狼のもとに遊びに来た。

「狼さん。何をしているの」

 慌てて裁縫道具を隠すも手遅れ。アンの目は欺けない。

「狼さん。何をしているの! 手めちゃくちゃケガしているじゃないの!」

 アンは驚いて言った。そして質問する。

「ねえ、なんで裁縫なんてやりだしたの」

「い、いやあ。お前さんに言われてちょっとだけ興味がわいたからな」

 苦し紛れの嘘でごまかす。狼のその言葉を聞いて赤ずきんは苦笑していった。

「そんなことならさっさと私に相談すればよかったのに。裁縫とかはお母さんに習ってわたしもやっているんだから教えてあげたのに」 

「でも……」

 次の言葉も言わせてもらえずにいいからいいからとアンは狼に裁縫を教えてあげる。狼は赤ずきんに裁縫を教えられて裁縫を必死に覚えた。そして数日後。

「狼さん。今日もまたあそぼー!」

 明るくアンはそういうも狼は珍しくもじもじとして何かを言い出せない雰囲気だった。

「どうしたの」

 不安そうにアンが聞いてももじもじとしていてなかなか言い出そうとしない。しばらくして狼は覚悟をした顔になりアンにプレゼントを渡した。赤いずきんだった。それを見たアンはとても驚いた顔をしたがすぐ笑顔になって受け取った。

「うれしい。ありがとう。これは何?」

 説明する間もなくアンは袋からプレゼントを開ける。

「これは」

「誕生日プレゼント。ずきんだよ。ほら、最初会ったときににずきんのことで喧嘩したいたでしょ。少し不格好かもしれないけど」

 しかし、アンは首を振っていった。とってもうれしい。ありがとう」

 といって狼に飛びついた。

「ありがとう。ありがとう。狼さん。ずっと一緒にいてね。約束よ」 

 狼もアンを抱きしめて行った。

「ああ。約束」

 そんなやり取りをしている中村の人間は見てしまったのだった。

 それから三年の月日が経った。少女だったアンは立派な可憐な女の子と成長していた。最近アンは忙しくして森に行く頻度が落ちていたが昔と変わらず森には時々行って狼と鼻をしたり遊んだりしていた。

「お母さーん。行ってきまーす!」

 最近よく母親が家にいないことをアンは疑問に思っていた。父親は仕事でいないのは当たり前だったが、母親までいないのは少し違和感だった。しかし、アンは考えても仕方ないと思い狼からプレゼントされた赤いずきんをかぶって森へと向かった。

「こんにちは。狼さん」

 彼女は木の陰から姿を見せると狼は気づいて手を振った。

「おう。きたか。アン」

 いつもとは違うアンの様子に狼は見てすぐに気づいた。

「どうした。アン。なんか今日は元気がねえな」

 しばらく沈黙していたアンだが、思い切って口にする。

「うん。実は今日は、今日はね大事な話があるんだ。私もうすぐ結婚するんだ」

「結……婚?」


驚きを隠せない様子の狼。さらにアンは続ける。

「私たちの村は元々貧乏なんだ。だから隣の城下町から援助金で支援してもらう代わりに隣町から希望が出た女の子は隣の町の住民と結婚しないといけないわけ」

 それを聞いて狼は怒りを隠しきれない様子だった。

「なんだよ。なんだよそれ。じゃあお前は。アンは結婚したくなくもない人と無理やり結婚させられるのか。アンは本当にそれでいいのかよ」

 アンは笑って顔をそらした。

「うん。大丈夫。私は幸せだから。村のためにわがままなんて言ってられないんだ」

「わがままとか。そんなの。お前の個人の幸せだろ。そんなの村で決める権利なんてあるのかよ」

「もう。熱くならないでよ。狼さんは優しい。大丈夫だって。相手もすごくいいひとだし。狼さんも笑って送り出してよ。結婚式にはこっそり来てほしいな」

 狼は腑に落ちない顔で顔をゆがましていた。

「じゃあ。そろそろいくから。式場の打合せしないと。バイバイ。狼さん」

狼はその時実感した。なんで人間相手にこんなにムキになっているんだろう。こんな少女相手に。一緒にいたいと。アンは言っていたがそれは狼だって同じだった。そして狼は気づいた。

「そっか。俺アイツに。アンに恋をしていたんだな」

 だけどそれはもういまさら。もう一緒にいることも好きでいることもできない。

「悔しいな」

 とつぶやいた。

 アンは狼と話して村に帰る途中、婚約者についての話を聞かされたことを思い出した。

「え。ママ私が結婚するって本当」

「そうよ。アンあなたが隣町の王様の息子さんに気に入られたの。相手は24の方ですって」

「厭よ。厭。私は結婚なんてしたくないわよ。私は結婚なんてしたくないの」

 しかし。アンの母親はゆっくりと首を振った。

「アン。あなたのそんなわがまま聞いてられないのよ。これは名誉なことなの。隣町の結婚を破断したらこの町は攻撃をされる。私たち家族もここにはいられなくなる。わかって頂戴」

 アンは俯いて小さくはいと言った。

 そして数日後。狼が昼寝をしているとアンらしき影が近づいてくるのに気づいた。

「おお。アンじゃねーか」

狼が話しかけてもアンはそのまま無視してどこかへ行ってしまった。

「なんだ。アイツ無視しやがって」

 狼はわけがわからないままアンのいた場所に行ってみると。結婚式の招待状が落ちていたのに気づく。

『結婚式招待状』

 これから村の教会で結婚式を執り行います。あんなことを言われた後ですがもしよければ来てください。待ってます

                        アン


 とかかれたあった。

「あいつ。照れくさくて渡せなかったのかな。無理もねーか。この前あんなどなっちまったからな。仕方ねーからこっそり見に行くだけみにいってやるか」 

 と言って狼はこっそり見に行くことを決めた。狼が村に降りてみるとやけに協会ないが静かなのに気づく。

「あれ。人間たち。みんな結婚式にもう行ったのかな。だったら急がないと」

 そういって協会に着いた。しかし、全く音がなく中に人いるか分からなかった。

「これ本当に人がいるのか」

 思い切って中に入ろうとしたその時

「ふふふ。引っかかったな。狼。ここにはアンはいないよ」

 狼が驚いて振り向くといつの間にか人間達に囲まれていた。

「なるほど。つまりはこれは俺をおびき寄せる罠だったってわけだな。かかって来いよ。人間が狼に勝てないというのを証明してやる」

 しかし、彼らは間髪を入れずに狼に向かって銃を撃つ。とっさのできごとに狼は対処できなかった。人間が撃ち込まれた弾丸は狼の胸を貫く。

「ふふふ。これが二年かけて作った。狼によく聞く銃弾だよ。いくらうっても仕留め損ねたら意味がないからな。アンの後をつけたおかげでお前の住処が分かったぜ」

「つまり二年前から俺様を倒す計画を立てていたということか。ア……ン……」

 そのまま狼は意識が途絶えて行った。 そして同刻。隣町で本当に結婚式が執り行っていた。彼女は何度見ても狼がいないことが気がかりだった。

「どうしたの。アンさん。そんなにきょろきょろして。そんなに僕と結婚するのが嫌だった」

 「ううん。違うんです。いや、知り合いの人がなかなか来ないのが気がかりで」

「知り合い?」

「あ、ううん。なんでもありませんの。」

 結婚式は無事終わり、次は場所を移動して披露宴だ。その前にアンは新婦に言った。

「ごめんなさい。私最後にどうしても挨拶したい人がいますの」

 それを横で聞いていたアンの両親は激怒する。

「お前。この期に及んで逃げ出す気じゃあるまいな」

 しかし、新婦はそれを止めて言った。

「まあまあ、いいじゃないですか。披露宴会場に向かうまでまだ時間があります。行ってきない」

 と笑って送り出した。アンはダッシュで森へと向かった。息を切らして森に着くとそこには狼の姿も荷物もなった。

「狼さん……」

 彼女は気づいた。狼はここにはいないと。彼女は振り向くとまた歩き出す。 

「いままでありがとう。狼さん。わたし幸せになるから。いつか生きていればどこかで会えるよね」


END

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