第83話


夕方

「お世話になりました」

「お世話になりました」

 見送りに来ていた村長と娘の言葉。

「こちらこそ」

「これから当分は面倒が続くだろうが、まぁ頑張れよ」

「無責任な」

「俺らはこの先の責任なんかとれないんだ」

「それもそうか、まぁ、頑張ってください。それじゃぁ」

 そう言って去っていく二人の冒険者。それを連れていく御者。


「思いなおしてみると、二人ともいい人でしたね」

「そうだな。しかし昨日はほとんど寝ずに、今日も昼寝を少しした程度なんだけどな。すごい体力だ」

 二人が見えなくなったあと、二人はそんなことを言った。

 思いのほか大事になった。傷跡も残ってはいる。でも冒険者の二人のおかげである程度で抑えられている。いなかったら大惨事が起きていてもおかしくなかった。

「ほんとに雇ってよかったよ。明日からも仕事だ。手伝ってくれよ」

「はい。お父さん」

 そして二人は家に帰っていく。


 野菜が満載された真っ暗な荷台に二人の冒険者は座っている。

 村から出荷される野菜だ。明朝の市場に間に合うように夕方に収穫し夜通し走る。

 夜は寒いが、野菜にとってはそれもいいこと。つらい仕事だがその分高く売れる。そしてそれは御者にとっての利益でもある。

 御者はこういった稼ぎで、妻と子供を養っている。


「あのドラゴン、群れに帰れますかね?」

 その野菜の間に座って二人がいろいろと話しているなか、Vがそんなことを聞いた。

「帰れるさ」

 ドーリーは自信をもって即答。

「なぜです?」

「ぼんくら男に騙されました。ってスキャンダルと、密猟者の集団を叩きのめしました。って名誉、どっちが重要視されると思う。団長にドラゴン族の方に口添えするように言っておいたしな」

「受け入れるドラゴンにとっても、自分たちの同族を襲う犯罪者を倒した、って人が群れに帰りたいといえば多少のスキャンダルに目をつぶっても面目が立ちますか」



 二人が知らない結論だけ言ってしまえば、親子は無事群れに帰ることができた。その群れの近くに住むきこりと知り合いのドラゴンが


「泣く子と皇帝にはドラゴンも勝てないか。」

「長はしぶしぶ受け入れます、って顔だったが、娘と孫はかわいいもんなんだろうな。そうそう、お前さん、あの玩具もう一個作ってくれねぇかな。長の孫が友達のをみて欲しがってるそうで、長に頼まれたんだ」

「またかい?これで3人目だよ。ドラゴン族向けの玩具屋でもやろうかね」


といった会話をする具合。



「帰ったらどうしましょうか?」

「そりゃ決まってるよ。次の仕事さ。いやでも、それより金があるうちに組合の認定試験を受けようか。まぁ行ってから決めるさ」

 認定試験を受けると何かメリットがあるわけではないが、履歴書に書けるので第三者が実力を判断する目安になる。なのでパーティーへの参加などがしやすくなる。

「そうですね」

 そんな会話をしながらVはなにか考えている。


「そういえば騎士団のあの女、知り合いか?かわいらしい子だったが」

「あぁ、えぇ、学校にいたころに、一緒に学んでいた同級生ってやつです」

「そうか。どうかしたのか?なにか考えてるみたいだが」


「いや、たかだか数年前の話ですけどね。懐かしいんですけど、同時に騎士団ってまともな仕事をやりたいんだか、やりたくないんだか、戻りたいんだか、戻りたくないんだか、自分でもなんといったらいいかわからない気持ちがあるんですよ。田舎のモンスター狩りなんかよりもっとまともな商売があればそっちのほうがいいとはわかってるんですけど、冒険者稼業の生活になれちゃったんでしょうね」


「世の中自分の仕事を続けられなかったり、やりたいことすらよくわかってない奴が大勢いるんだぜ」


 傭兵団を首になったドーリー、足をケガしてやめた元猟師、首都で仕事ができなくなったと逃げてきた盗賊団、女騎士になりたいという夢を捨てた村長の娘。


「自分がどんなこと考えていようが、なれた仕事が続けられるならそれでいいじゃないか」

「そうですか」


 そして少しの間、二人は無言になる。


「首都に帰ったら、またほかのパーティーを探してみますよ。そのほうが儲けがいいですし、見つからなかったら、またその時はご一緒に仕事しましょう」

「こちらこそ頼むよ」


 月が空高く上り道を照らす。そこを走る馬車とその荷台からの声。それも次第に聞こえなくなる。

 そして頃合いをみて、御者は馬の速度を上げた。


 終

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