第73話

 村の外れ。

 空高くを周回し、着地場所を探すドラゴン。

 畑を荒らすのは人間の迷惑になる。家の数が少ないので街中に下りることもできそうだが何かの間違いで建物を傷つけてはいけない。

 彼女もドラゴンなのだ。礼儀やマナーについてはうるさいし、これから迷惑をかける人間なのだから初対面の印象は大事。

 そして着地場所の検討をつけたところで、見つけた一行。我が子を狙った密猟者。

そして高らかに雄叫び。


 ドラゴンの雄叫びは村中に轟いた。

 沼のスライムは歓喜の声でそれを迎える。

「なんだ。またよくわからない怪物が出たのか?」

 連中とは反対方向だから、という事で近所の老人や子供をかくまった沼地の住人はそう言って外を見た。

 どこかから現れたスライムたちが家の前で飛び跳ねている。

「なにが起きてんだ」


 森にすむゴブリンとオークは、喧嘩することをやめその雄叫びに敬意を表した。ゴブリンとオークの命がけの勝負などその怪物の前には無意味だ。

我々の偉大なる神。

森のシカも、猪も、ウサギでさえその声に敬意を表す。

親愛なる隣人には敬意を示すべきだ。


 仕事で行った首都から諸事情でとんぼ返りしていた御者はその雄叫びと、それに従うように馬が急に止まることで馬車から落ちかけた。

 それに随伴する騎士と冒険者の集団も同様。ただみなそれなりに馬を扱う技術に長じているから落馬はしない。

「なんですか。これ」

 そして馬はその場でいななく。

「ドラゴンだ。ドラゴンが来たんだ」

 騎士の隊長がそう言った。


 そしてドラゴンの背中ににいる二人は急な雄叫びに

「なんだ」

「どうしたんですか?」

と叫び体にしがみつく、そして近くを飛んでいた子ドラゴンを手振りで引き寄せた。

「おかぁさん、襲った人、見つけた」

「密猟者か。おかぁさんに言ってくれ。まず俺らを生きて下ろせと。でなけりゃ後ろから俺がその頭狙って撃つぞ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る