第63話


 例えばこの村の木こり。

 商売柄、年中山の中に入るのでドラゴンとよく合うが今更堅苦しい挨拶などしない。仕事中など目があえば会釈する程度。

 ドラゴンはドラゴンで気にしない。むしろ人語を理解するドラゴンなどは

「随分と久しぶりじゃないか。どうしてたんだ」

などと休憩中の木こり気軽に話しかける。作業中は話しかけない。仕事の邪魔はしちゃいけないからだ。


「おう、向こうの村の木こりが仕事でミスって手をやっちまってな。応援に行ってやりかけの仕事だけ片付けてやったんだ」

「そうか。木こりってのも危険な商売だな。お前さんも気をつけなよ」

「ほんとね。大きなケガだけはしないようにやってきたいよ。俺は覚悟の上だが、嫁さんや子供に迷惑がかかる。そういえば※※※の所、孫が生まれそうだって聞いてから行ったんだが、どうなった」

「あそこかい。無事生まれてもう飛び回ってるよ」

「あいつには息子の結婚祝いをもらってんだ。何か祝いの品でも送ろうかなと思ってるんだが、酒でも送ればいいのかね。金を包んで渡しても喜ばんだろうし」

「ドラゴンは子供が生まれたからって祝う習慣はないからなぁ。送っちゃいかんってことも聞いたことないから送るのはいいと思うが。まぁあいつは孫が生まれてから孫バカだから、子供が喜びそうなおもちゃでも送ってやったらどうだ。木こりならそういうものを作るのも得意だろう」

「そうするよ。でも、やっぱりドラゴンでも孫はかわいいものかい」

「そりゃそうよ。あいつなんか孫が生まれてから孫の話ばっかりだ。あんたの所はどうだ」

「俺も早く見たいもんだが、こればかりは神様のご采配だからな。息子夫婦せっついてもどうにもなんねぇさ」

 そんなくだらない話を木こりはたばこを吸いながらドラゴンとする。完全に近所のおっちゃんである。そして世間話や近状トーク。


 話題としては、例えば今この界隈のドラゴン業界で一番ホットな話題

「うちの長の一人娘が、▽▽村近くのドラゴンの長の息子とできてガキまで拵えたんだが、息子にはもう許婚がいてな。▽▽村の息子は長のおやじに「責任を取れ」と半殺し一歩手前までつるしあげられるわ許婚はどうするんだの大騒ぎだが、息子の方は何をされようが「あれは遊び、今更あいつとよりを戻す気はない」の一点張り。そして娘の方は最近追放になったんだよ。うちの長は初めは大荒れで、追放だ追放だ、って言ってたんだが娘と孫が実際に出て行ってからは妙に萎んじまってな。長は小うるさくていやな年寄りだが、あぁなるとかわいそうなもんだよ」

「娘さんはろくでなしに引っかかちまったんだな。可哀そうに」

という話とかだ。

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