第64話
話をもう一回戻そう。
首都の学説と相反する僻地の村の住人の言い分だが、とある町の図書館にいるドラゴンは別におかしな話じゃないという
確かに我々は公的な場面では我々の礼儀作法を重んじるが、私的な付き合いであれば節度を重んじた範囲でくだけた会話もする。ドラゴン同士はあまり贈り物というものはしないが、人間との友好を深めるためであれば人間文化に合わせて贈り物をする。別に人間も同じではないか。
あと田舎だし。やっぱ近所付き合いは大事じゃん。この間くれた肉料理、おいしかったよ。
料理に火力ってやっぱ大事だよね。火くらいいつでも噴くからまた呼んでくれよ。俺の特技なんだ。
というわけである。
もう一回話を戻すと、ドーリーは、20年荒くれものの傭兵で飯を食い、いろんな所で情報収集してきた男である。話術の妙というか、うまい具合に話を聞きだす才覚がある。
そこで泣き出したり嘆いたり悲しんだりするドラゴンの奥さんを子供と一緒に宥めすかしながら必用な話を聞きだした。
それを要約すると
「バカな男に引っかかて子供を作ったが捨てられた。族長だった親には追放され、男は責任を取るつもりがないの一点張りで私もさすがに愛想をつかした。それで首都のテルシア家はドラゴンとの関係を重視しているという事を聞いたことがあるからとりあえず首都の方に飛んできた」
とのこと。
「仕事」については息子を言いくるめる方便。しかし息子はそんなものないとうすうす気づいていたという。
えらく賢い子供であるが、これは野生の中で暮らすドラゴンが培った特徴。赤ん坊の期間が異常に短い代わりに、幼年期から成人するまでが長い。
それに親がこれだ。子供は苦労するし、苦労の中で成長するしかない。
「テルシア家はもうないぜ。100年以上前に滅びていまじゃ分家の分家くらいのやつが隣の国で貴族仕えの騎士をやってるだけだ」
「そんな、でも儀礼経典を作った偉大な貴族だと」
「その後に滅びたのさ」
文字通りの絶句。彼女?が住んでいるのは僻地なのでどうにも情報の更新が遅い。それに追い出されるまでは人間の貴族など興味もなかったのだ。知らなくても仕方ない。
「おかぁさん、帰ろう、おじいちゃん、謝れば、ゆるしてくれる」
「そんなわけにはいかないわ。族長だもの」
「あんたが頭を下げるしかないよ」
ドーリーは言う。
「男と偉い人間ってのはプライドと見栄で食ってるようなもんだ。納得いかなくても頭下げて満足させてやるしかないよ」
「冒険者のあなたに何がわかる」
「親は子が居なくても生きていけるが、子は親が居なきゃ生きていけないんだ。ろくでもない商売してるが、それくらいは知ってる。まぁ何が大事か考えることだな」
そう言ったとき、Vがどうにかしてドラゴンの体から降りてきた。
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