第62話

 人間に対する会話術がドラゴンに通用するのか?

 これは首都の学会において一度も提議されたことがない問題である。当たり前である。ドラゴンと人は違うからだ。話が通じるといっても違う存在。だからドラゴンに対する会話術や礼儀は人間とは違う。

 そう考えるのが世の中の主流でもある。実際公的な場であれば正解であり、帝国は貴族たちにドラゴンに対する礼儀マニュアルを作って必要に応じて配布している。


 このマニュアルの初版を作ったのが貴族として帝国に仕えていた時代のテルシア家。

 ドラゴン族の中でも官僚的存在のドラゴンと話し合いながらこのマニュアルを作った。その結果として、ドラゴンと仲良くなり、ドラゴンにそそのかされ、戦争のどさくさに紛れてドラゴンと共に隣国の領土を狙い、失敗。


 帝国は礼儀マニュアルを作ったのが最大の功績という下っ端貴族が帝国に無断で外国の領土を狙ったなどという事案で貴族を守る義理はなく、むしろ隣国との友好のために領土を取り上げたり、隣国と連携して後ろを攻撃する始末。

 ドラゴンは長老たちがドラゴンは人間同士の戦争とはかかわらないという取り決めを各国と結びなんとかドラゴンへの攻撃や戦争のための利用を防ごうとしている中で、一部のバカが人間と対等な独立国を作りたいなどという発想で起こしたこの事案で同じ種族のドラゴンを守る義理はない、むしろドラゴン全体の信頼のためにと例外として戦争に参加。

 隣国は帝国の貴族がドラゴンと攻めてくるという恐怖におびえたが、ふたを開けてみたら帝国とドラゴンの臨時連合隊が仲間になった。


 これで負けるわけがない。


 そういったわけでテルシア家の多くは捕らえられ死刑、それ以外は戦死、ドラゴンも同様に戦死かドラゴン族の処罰を受けることになる。

 そんな中でなんとかいきのこった分家の分家くらいのテルシア家が、いま隣国にいる貴族仕えの騎士の先祖。


 話を戻そう。

 人間の話術がドラゴンに通じるか。

 これについて、学会や貴族、その他大勢についてはNOという考えが主流だが、一部の田舎に行くと別の意見がある。


 田舎、といっても首都から馬車を走らせて1日などという距離ではなく、太陽が落ちていくほうにひたすら馬車を走らせたらつく、朝は鶏の鳴き声ではなくドラゴンの咆哮や雄たけびで起きるという僻地といったほうがいい地域。

 そこの人たちは

「礼儀に小うるさい近所のおばさんみたいなもんだよな」

という意見。

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