第53話
そして数日後のこと。
「この道をまっすぐ行くと、道が二つに分かれた場所があってな」
山菜取りの畑の近く、森の中に続く道の脇で山菜取りの息子が冒険者二人に道を教えている。
彼にも畑の仕事がある。大事な労働力である母は、今日が初仕事と村中を駆け回ってる村長の娘の応援に出ているので一人で回す必要があり、今日は忙しくなる。
明日からは妹夫婦と子供たちが応援に来てくれるのでそれまでの我慢。
「右、えーっと、まぁ細い道の方に行くんだ。どう見ても整備されてない細い道だから行けばわかるよ。もし間違えたほうに行っても隣の村までの一本道だから気づいたら戻ってきたらいい。そっちの道も最近はモンスターが出るんであんま行き来する人はいねぇが、あんたらな大丈夫だろ」
その大変な時に二人のために時間を割いたのは、一つに恩返し。オークが出てきた目の前に、自分の畑があるのだ。村が襲われる前に自分の畑がダメになるところだった。
「そのダンジョンに行ったことはあるか?」
「ガキの頃にね。行こうとしたことはある」
そう言って地面に座り込み、土に絵を描く。
「ここいらは田舎だから、村の男の子は一度は騎士か冒険者にあこがれるもんだ」
「都会も一緒ですよ。みんなの憧れ。いつの間にか町の厄介者になってるけど」
息子はVの言葉に苦笑いして続ける。
「そういう子供にとって、ダンジョンってのがどんだけいい響きか分かるだろ。だからガキの時分に友達とパーティーの真似事組んで行ったことがある。キャンプ道具もって、武器なんてのは家から持ち出した包丁や野良道具くらいものでさ」
息子が書いているのは彼らがいく先の地図。分かれ道の前にある目立つ石や、もし間違えたらこういうものが見える的なものを書く。
絵心はないが、伝えたいことを的確に書いてるのでわかりやすい、とはそれを地図に書き写すVの意見。
「細い道を進むとすぐ先にちょっとした川がある。湧き水かなんかで道が冠水しちまってるんだろうな。俺たちはそこでスライムにあってな。怖くなって逃げ出したんだ。そんなお前らじゃ騎士や冒険者は無理だ。バカな真似しねぇでうちの畑をつげ。田舎が嫌なら首都さ行って商売人にでもなれ。命がけの仕事なんかやめてくれって泣きながらおっかぁにしかられたよ」
冒険者二人のために時間を割いたのは、彼の子供の頃に置いてきた夢がそこにあるから。
「あんたらはプロだからお節介だろうけど、気を付けてな。よそ者のあんたらがこんな田舎で死ぬことはねぇで、命は大事にしないとだめだ」
自分が知ってる限りの情報を伝えた息子は、森に向かう二人の冒険者にそう声をかけた。
「ありがとうございます。それじゃぁみなさんによろしくとお伝えください」
「わかってるよ。ありがと」
これからダンジョン討伐だというのに比較的軽量の荷物を背負った二人は、手を振って森の中に入っていた。
見送りは息子一人。ほかの村人はみな自分の仕事がある。
村の窮地を救う、と言っても冒険者の現実はこんなものだ。それに皆の仕事を守るために雇った面もある。
そして息子は二人の姿が見えなくなるまで見送り、自分の仕事に戻っていった。
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