第50話

「ダンジョン討伐なんか頼んでないぜ」

 冒険者二人が何を考えたとしても、やらなくてはいけないのが雇用主である村長への相談と許可を得ること。

 いい加減な冒険者はこれがなかなかできない。そういうわけで村長の執務室にまた押し掛けた。

「討伐じゃなくて様子を見て来ようって考えさ」

「にしてもなぁ」

 村長、というより村人全体のこの二人への信頼は村の集会で冒険者を雇うと決めた時とはまったく違っている。

 二人で化け物みたいな鳥とおっかないオーク、そして細かなモンスターに獣を討伐、しかも話してみると二人とも違ったタイプだが人当たりがよく、よく気が利く。

 けが人は一人も出してない。家畜への被害は逃げ出した馬が罠にかかっただけ、それにしても手際よく対応してくれた。

 これで信頼度が上がらないほうがおかしいというもの。

 それでも

「ダンジョンなぁ?行く必要あるのか?」

でてくるのが村長のこの言葉。


 実際問題として二人に頼んでるのは村の周りに出てくるモンスターの討伐なのだ。

「帰りの駄賃でそのダンジョンを狙ってみるからもうちょっと滞在させてくれ」

などであれば喜んで協力しただろうか、第一は村周辺のモンスターの討伐。

 延長してもいいんじゃないか、と村の幹部から意見がでてるし、個人的には村の猟師や医者として正式に雇ってもいいと思ってるが、それにしてもまずこの仕事を完遂させてからだ。


「こちらとしてはまず第一に村の周辺にでるやつを狙ってほしいんだが。昨日も畑に獣がでたって話が来てるんだ」

「原因を抑えなきゃきりがないぜ」

「あんな化け物みたいなやつと永遠と勝負する気はありませんよ」

「まぁそれもそうなんだよなぁ。あんたがたがいいなら村で雇ってもいいんだが、そんな気はないみたいだし」

 二人の「大量発生の原因を抑える。だから期間の延長とかやめてくれ!!」という心の声を隠した主張に隠れた声を村長は見透かしている。

 こう見えても村長。そういうのを見透かして話をまとめるのも仕事。


「分かってるなら隠す必要もないかと思いますが、首都でうまい仕事がないから受けたようなものなんです。ですからこの待遇で期間の延長なんてまっぴらごめんってやつで。原因を抑えるのでそれで開放してくださいよ。業務の内容が少し変わるだけでしょ」

「君なんか酒臭いな」

「酒場の奥様が奢ってくれたんだよ。1杯だけだったんだが、こいつ酒に弱いんだなぁ」

 妙に多弁なVとその口臭を嗅ぎ取った村長、そしてドーリーは釈明とVを引っ張って椅子に座らせる。

「まぁとにかく、オークだのよくわからん怪鳥だのが出てくると思ってりゃ受けなかったよ。今から断って報酬半分もらって帰っても文句言われる筋合いはないくらいだぜ」

「まぁね。その点については否定しようがない。今更な釈明だろうが、こちらもそこまで大物がでるとは思ってなかったんだよ」


 村長は立ち上がって壁に掛けられた地図の前に。

「最近妙にモンスターや獣の害が多い、って話が村の集会で何回も出てね。村唯一の猟師が辞めたせいだろう。ってみんな思ってたんだ。馬みたいなモンスターや蝙蝠、ゴブリンなんかが村の周りに出てくるのは今に始まった話じゃないしね。猟師はもう猟はやめだと言ってるから、とりあえず都会の冒険者に依頼してみようってことになってさ」

 そう言って地図に書かれた村を見る。

 小さなダンジョンがある深い森があり、びちゃびちゃうるさいスライムが住む沼があり、首都へ続く道があり、村人や行商人が寄って休んだり金を落とす温泉がある。あとは畑と平原とモンスターの総数より少ないだろう家屋。

 何もない小さな村。とまではいかないが、他所にはない特色があり観光客が、という村でもない。首都の近くにある普通の村。そんな村でほかでやる人間もいないということで数十年村長をやってる。

「いい村なんだよ。ほんとね。オークやあんなでかい鳥が村の周りをうろつきまわるような土地じゃないんだ」

「そりゃわかるよ。傭兵稼業より面白味がない人生ならいい土地だ。それは大体の人間の面白くない幸福でもある」

 そう、平凡な村。戦争がなく借金や大病でも患わなければ平凡な人生をおくれる場所

 そんな村の近くにオークが出た。化け物みたいな鳥が村の周りに住み着いていた。

 次は何が来る。田舎者でしかない村人たちにも、少しずつ困惑と動揺が広まっている。

 ならば原因を探らなければならない

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