第49話

「一つの意見としてきいてほしいんですが、何らかの事情で、まぁ端的に言えばどっかの冒険者が適当に乗り込んで件のダンジョンを討伐した、って可能性もあるかなと思います」

「ダンジョンの討伐をしたらモンスターが村に来るのか?いや、考えてみれば来たときに見たゴブリンだってそういう口か」

 ドーリーが言ったのは道でモンスターに襲われていたゴブリン。

 確かにあれだってそうだ。

 ダンジョンではなく巣穴だし、来たモンスターが弱いゴブリンだったって話ではあるが、原理としては同じで「山の中の住処を失ったか村のほうまで出てきた」というもの。

「でも冒険者が討伐する価値もないダンジョンだって話だったぜ」

「確かにそうですけど、冒険者と言っても質は様々ですからね。というより、正直に、怒らないでくださいよ?言えば、あなたのような傭兵からの転職組や山賊だの犯罪者に毛が生えたやつなんかが増えてきてるので最近は冒険者の質が低くくなる一方で数だけは増えてます」

 20歳も下の男にそんな事を言われてもドーリーは怒らない。冒険者として素人なのは確かだし、ダンジョン討伐で被害が広がるなどここに来るまで考えたこともない素人。あとこう見えても人はできてる。

「ダンジョンなら宝があると軽い計画で乗り込んで荒っぽく討伐した結果赤字、そこに巣食ってたモンスターがダンジョンから逃げ出し周辺の村を襲う、なんてのもそういった連中ならよくあることです。ですから例のダンジョンも同じ理屈で討伐されたんじゃないでしょうか?だったら村の周りまでモンスターが来る理屈もわかる。金目のものがないダンジョンを討伐した連中は手間賃だけでも、と周辺のモンスターを狙いますからね。その結果被害はもっと広がる」

 冒険者ならでは、というより冒険者の視点、とドーリーは思ったがそれには一つ難点もある。


「確かにありそうだとは思うけどよ、いくら規模が小さいと言ってもダンジョンだぜ。あのおっさんみたいに様子みてくるだけならまだしも、討伐になれば一人でできるものでも無いだろ」

「小規模なダンジョンなら補助と戦闘職合わせて5人、少なくとも4人でしょうね」

「頭数だけで勝負する素人なら10とか行くんじゃないか?どちらにしろ食料や武器の調達だっている。そんだけの規模の人間が近辺の村に関わらず討伐に行けるなんてのも無理があるだろう。仮に来たのなら噂の一つ立ってる筈だぜ。田舎じゃ俺ら二人が来ただけでも目立ってるからな」

 これは傭兵の視点を持つドーリーの意見。

 人が動けば痕跡が残る。足跡と毛しかない動物と違って、金の動き、人の動きはどうしたって目立つのだ。

 傭兵として戦争の状況を調べ、引くか攻めるかの判断を上司に進言してきたドーリーの視点と感覚では同業者がこの界隈に来たとはどうも思えない。

 来たのならとっくにそういう話が入ってるだろう。

 ただ思いつく原因がダンジョンしかないのも事実であり、どうもVの意見も正しいのではないかと本人も思ってる。

 そしてVもドーリーの意見には賛成だ。


 つまりどっちの主張にもとどめの一撃が足りない。


 二人は首を傾げてビールを飲み切る。

 そしてVは数秒考えた上で

「ダンジョン行ってみますか?」

と一言。原因がわからなければ情報を集めるしかない。

「それしかないが、お前の言葉は忘れねぇぜ。お前がダンジョンに行こうって言い出したんだ」

とドーリーは返す。

「お二人、時間だよ。帰りな」

と女主人が口を開けば、二人はおとなしくビールのお礼を言って帰る。

 こういう二人が次に行く場所は、ダンジョン。ではない。

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