第48話
酒場。
相変わらずうまいのかまずいのかわからない微妙な昼食だったが、今日はそこにビールが一杯づつ付いてきた。
「あんたら大活躍じゃないか。馬鹿でかい鳥二匹にオークまで倒したんだって聞いたよ。それは私のおごりだよ」
という女主人の好意。
出すなら普通夜だろうが、女主人は夜にこういうことをやると酔っぱらい共がうるさいのでやらない主義。
そして冒険者二人は、貰えるものなら貰っておく主義だし、禁酒主義でもないし、飲み過ぎなければいいだろうという人たち。
つまり三人の主義主張は特に相反せず。なので昼間から酒ということになる。
「それでだ」
相変わらずうまいのかまずいのかよくわからない昼飯を食い、ビールをちょびちょびとケチ臭く飲みながらドーリーは切り出す。
「どうする?」
「どうって」
Vはドーリー以上にケチ臭く飲んでる。こっちはケチではなく酒にあまり強くないだけ。
「どうしましょうね」
「まぁ一つの考えとしてだ、今までの、と言っても1週間立ってねぇんだな。まだ、割に合わねぇ」
「あなたがこの仕事をやらないかって言ったんですよ。僕はそういうことを忘れない主義ですからね」
「たしかにそうだけどさ。あの応募用紙見てこんな仕事だと思ったか?思わねぇだろ?」
「思ってたら受けませんよ」
そう言って二人で苦笑いしまた一口。
「まぁあれだ、今までの作戦通りに村の周りに罠を仕掛けてモンスターを捕まえて駆除して、をあと一週間繰り返すというのは一つの案だ」
「まぁそうですね。でも根本の原因が取り除かれない限り長引きますよ。確実に。延長とか入りかねません」
Vは言った。
延長とは「契約期間の延長手続き」のこと。一度受けた契約を雇用者(今回の仕事では村長)と組合の交渉の上で業務の期間を延長すること。
当然冒険者の意志も含まれるが
「次の仕事があるので無理です」
「パーティーが解散するので無理です」
「怪我しちゃって」
「雇用者と考えが合わないので」
「一時休業するので」
「私の手に負えないので」
など組合が納得する言い訳がなければ原則断れない仕組みになっている。
これは山賊に毛が生えたような連中も多い業界である冒険者業界において、冒険者の生活を強権的に安定化させることで質の向上、そして組合が冒険者の把握、管理をしやすくするために行われている取り組みの一例だ。
そして場合によっては、組合が抜けて直接雇用。つまり正社員化、冒険者からの転職という道もあり、制度に否定的な意見もあるが基本賛成派が多い制度。
ではこの制度の何が問題か、といえば二人に断る言い訳がないと言うことだ。次なにがでてくるかわからないびっくり箱のような仕事の延長など断りたいに決まっている。
「根本の原因ね。やっぱりダンジョンかな」
ドーリーはそう答えた。今まで聞いた話の中でなにか原因があるとしたらダンジョンくらいしか思いつかない。
「森全体が不作、というだけで森のオークが人里まで出てくるようなことはないだろう。聞いた話だとダンジョンくらいしか思いつく原因がない」
「そうだと思うんですが、なんでしょうね。何もわからない感じがあります」
Vはドーリーの考えに賛同する一方で否定的な意見も頭によぎる。
「ダンジョンは多少やばいモンスターが増えても受け入れる余裕があるからダンジョンなんです。ですから一般的にダンジョンはモンスターが人里に出てこなくなる要因であって、モンスターが出てくる原因になることは少ないんですよ」
Vの考え方は中級以上の冒険者ならではのものだ。
素人や素人に毛が生えた冒険者、あと考え無しの連中などは無闇矢鱈とダンジョンを討伐してモンスターを拡散させて被害を拡大させる。
今回のように。
そう、今回のようにだ。
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