第28話
「そいうお前はどうなんだ」
ドーリーはスライムが釣れるまでの話題としてそんなことを聞く。
「まぁ何となく首になった理由は聞いたし察したが、詳しくは聞いてないぜ。短い付き合いなりにお前が冒険者として十分有能だってのはわかったうえで聞くけど、なにがあって追い出されたんだ」
「なにが、ねぇ」
Vは考えるが
「思い当たる節がない、というよりこう、なんていうんですかね。小さな理由はわかるし沢山あるんです。チームメンバーと性格の不一致とか、ちょっとした生活習慣がなんかいやだとか、僕の態度を嫌うとか。実力の不一致とか。でもドーリーさんに明確に説明できるような理由やきっかけがあったかって言われると、僕より使いやすい仲間がパーティーに入った、以上の言葉がないんです」
「まぁ、何となくいいたいことはわかるよ。ジャブの連打で弱った所にストレート、ってことだろ」
「そんな感じですね」
Vは水面を見ながら考える。密集したスライムのせいで光が屈折して妙な形の自分の絵を写す。
「もともと、冒険者に成りたての頃からあまりパーティーに呼ばれなかったんです。技能が技能ですから補助職が中心になるんですけど、補助職専業みたいな人を常設で雇うパーティーなんてそうそう無いんですよ。それより初級レベルでも戦闘に参加できる魔法使いの方がいいでしょう」
「まぁ、頭数が増えれば取り分が減る商売だからな。傭兵も冒険者も」
専門家を集めた大人数で大きな仕事をする、というパーティーやパターンもあるがそんな仕事やパーティーはそうそうない。
なのでオールマイティの方が何かと重宝されるのだ。小さな仕事を少人数で討伐して報酬を分けるほうがいいというわけ。
「えぇ、どうも戦闘用の魔法についてはからきし才能がない。取れて基本程度でした。そうなるとまぁ、ダンジョン探索なんかは呼ばれない。呼ばれてもピンチヒッターや数合わせ程度だ」
基本、とは組合が定めている技能認定における最低ランク。
「魔法の基礎知識や安全への知識があり、これより上級の実技に参加しても問題がない」
という物。なので頭がいい子供でも取れる。
組合の決まりでは技能認定のランクは正直にみんな書くこと、となっているから書いているが、だれも評価しない。それが基本の扱い。
「それをカバーするために罠なんかを覚えてモンスター狩り寄りの技能を覚えたのですが、この業界、モンスター狩りはモンスター狩りで補助職ってのがあまり重要視されない。あの手の人たちは村や前線基地を拠点に動くのが基本ですからね。今回の僕らと同じだ」
一人でバリバリ進んでダンジョン奥深くの珍しいモンスターを、的なことは一般的ではない。まぁ世の中広いのでそんな人も居るが。
なので補助職専門の冒険者を雇う必要はあまりないのだ。必要なら医者などを雇って後方に連れていくか、後方の村などの医者に金を積んで頼んだほうが良いという訳。
「そんな状態で、なんとか常設パーティーに入れてもらったのが前のパーティーでした。まぁその程度の扱いでしたから、切られたりしないようにそれなりに頑張ってんですけどね。それでもパーティーから求められる技能やパーティー求める物の不一致、というでしょうか、そういうちょっとした不和が今思えばいくらでも思い当たるわけです」
「なるほどねぇ。そして自分より使いやすいやつが入って、ノックアウトと」
「そうですね」
Vは足元にあった石を水の中の向けて軽く投げる。
水の中のスライムはその石を飲み込み水の中へ。そして水の中で体全体で包み込む。そして消化できない物は時間をかけて吐き出し、できるものは時間をかけて栄養に。この時間を使ってロープで引っ張り上げようというのがこの二人がやっている釣りである。
「別にお前さんの技能なら医者なりどっかの先生にでも転職できるだろ。俺みたいに今更他所の業界に行くのも難しいってやつとは違うんだ。未来はまだ明るいさ」
ドーリーなりの励ましだろうか、そんなことをVに言ったときに紐が引っ張られた。
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