第27話
まず開くには少し早い時間帯に無理やり乗り込んで、酒場の女主人に無理を言って弁当を頼む。
「遠出でもするの?」
「釣りに行くんだ」
Vはどこに行くか聞いてないが、釣り、釣りねぇ。
簡単な弁当ができるまでVはその場で待ち、その間にドーリーは近くの雑貨屋で買い物。
買ったものは売れ残っていた老人用の木の杖とのこぎり、そしてペンキ。
「罠を作るって言ったらのこぎりは店主が貸してくれたし、木の杖とペンキは今度鹿でも取れたら分けてくれればいいとさ。ありがたいね」
売れ残りの商品だし、ドーリーとVのことはすでに聞いてる雑貨店店主の心遣い。
「なに作るんです?」
「スライムを釣るのさ」
なにを言ってるんだろう?という顔のVを置いて、無理を言って作って貰った弁当のお礼をしっかりと伝えるドーリー。
「細かく説明するより、見たほうがわかりやすい。いいから来なよ」
そう言ってVと昨日の沼地に向かう。
時間短縮のために村長の家で馬車を借り(馬ではなく馬車なのはVが馬に乗れなかったためだ)昼を過ぎたあたりに沼地の住人の家についた二人。
そこでドリーは庭先を借りて簡単極まりない罠、というか漁具を作った。
持ってきた紐の先端に木の杖をくくりつけて適当な長さに切る。そして目立つ色のペンキを塗りたくる。完成。
「釣りなんて遊びでやる釣りしかやったことはありませんが、こんなので何が釣れるんですか?」
Vの正直な感想。
「親父が子供の頃こんな細工でスライムを釣った、って聞いたことはあるけど」
馬車を留めさせてほしいとドーリーに言われて快諾したあと、家の前の作業を何となく眺めて居た住人がそう口を挟む。
「本当に釣れるんだね。僕はまったく信じてなかったよ」
「褒めてくれ、という気はないけどさ、もっとこう、なんかあるだろ?反応ってものが」
これは自分の扱いに呆れたドーリーの言葉。
Vとドーリーは住民に教えてもらったスライムの住処の沼にむかった。
スライムの周りには不思議と蚊が居ないのですぐにわかるよ、という住人の言葉通りの場所を見つけ、近くの大きな石を椅子代わりに座り込む。
たしかにVが水上から見てもスライムが居ることがわかる。ただ
「密集しすぎだなぁ」
Vの経験と知識から言えばそうだ。一箇所にいるには数が多すぎる。
「モンスターなんかは多産や群れ同士がかち合って数を増やすと、群れを2つに分けて片方が住処を変えます。もしかするとそのせいで村の方まで来ているのかもしれませんね」
「でも種類が多いだろ?スライムだけがなぜか大量発生した、獣型モンスターが他所の群れとかち合って縄張りを変えた、位ならわかるがそれが何種類も同時に起こるものなのか?」
「普通は起きませんね。起きたとしたら何か想定してないことが起きてるとしか」
二人で話し合っても埒があかない。
仕方ないのでドーリーは釣りの準備。
と言ってもシンプル。杖を遠くに投げるだけだ。
そしてもう一方は近くの岩に結びつける。
「これで紐がひっぱられたら二人で急いで引っ張りあげるだけだ」
「簡単ですね」
そう言ってVはスライムの特性を考える。
「あぁ、あの杖を敵だと思ったスライムが襲いかかるんですね。スライムの特技である丸呑みをしようとする。でも連中は木の杖を消化するような能力は無い。そこで引っ張り上げると」
「そ。南の方でやるやり方でね。本格的な漁というより遊びみたいみたいな物だけど、ドラゴンのしっぽって言われてる手法さ。昔向こうに行った時にコレで鳴らしたもんだ」
「鳴らすって」
「向こうじゃこの方法で釣り上げたスライムの大きさ比べをして勝負をするんだ。暇つぶしにちょうどいいし、珍しいスライムならちょっとした小遣い稼ぎにもなる」
そう言ってドーリーは背伸びをした。
ここ2日、まだ一日半しか立ってないんだなとはVの嘆き、小休止があったとはいえ働きづめだったのでいい休憩だというわけ。
「あなたが傭兵団を首になった理由。何となくわかりますよ」
「なんだ。いきなり」
「いや、戦闘に強いのは当然ですけど、それ以外でもなんでもそつなくこなすでしょ。あなたなら首になってもどっかで食っていけると思われたんじゃないですか」
戦うことでしか食っていけない連中、傭兵団に居なきゃ野盗にもでもなるしかない連中、そういう連中はVも何人かしっている。
そういう連中を切り捨ててしまうとどこに行くか、考えたくもない。
ドーリーはそんな感じではない。冒険者としての知識が自分よりもないが、しっかりと冒険者としての訓練を受け直せばこれからでも中の中以上として食っていけるだろうし、パーティーにも入れるだろう。
「団長にそう思われたんだとしたらありがたいが、どっちにしろ首は変わらねぇからな」
「ですね」
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