第16話
「こんなのでいいですか」
村長の執務室に飾られている村の地図は、無意味に華美に飾られていて見づらいが十分実用に耐えるものだった。
「十分じゃないか。裏紙は?」
ドーリーの言葉に村長は執務室の端に積んであった書類の束の中から適当に二三枚抜いて渡した。
裏に書かれてるのは畑の作付けの計画表(決定案)という文字。
「なんか大事そうな書類だけどいいのか?」
「数年前のやつです。残していても私塾で子どもたちが字の練習に使うか、村人が壺の蓋なんかに使うかですから必要ならどうぞご自由に」
田舎だから紙は貴重品。だから役所でも最低限残しておくべき書類以外はできるだけ使い回すか民間に流す。
だからこそ壁に地図を飾るというのは一つのステータス。なので実用性がない華美な飾り付けを行う。
「ちょうどいいくらいですね、ドーリーさん、ちょっといいですか。紙をもっていてください。で地図と一直線になるようにしてください」
「おう。こんな感じか」
「もうちょっと前、前、そこですね。あっ、地図との間に自分の体を入れないようにしてください」
「なら膝立ちとかのほうがいいかな。紙を掲げる感じで」
「そうですね。あ、頭下げて、そうですそうです。じゃぁちょっと動かないで」
位置関係としては壁に飾られた地図の前に、ドーリーが掲げた紙、そしてVという形。
Vは手をすり合わせながら裏紙に対して魔法を唱える。
そうすると、裏紙に徐々に絵がうつりだした。壁にかかっているの地図の縮尺版。ただ飾りだったり小さな印なんかの細かい部分は省略されている。
それをもう紙を変えてもう一回繰り返した。
これで簡易で多少手直しはいるが地図が二枚できあがるというわけ。
「すごいな」
Vの魔法に村長はただ驚くしかない。
彼だって魔法は見たことあるし、隣村の医者に書類仕事で疲れた目を癒やす簡単な魔法をかけてもらった事などもあるが、こういう魔法は初めてだ。
「上等だよ。しかし君、冒険者向きじゃない魔法をいろいろ知ってるな。医者か学者にでもなったほうが良かったんじゃないか」
ドーリーも地図を見て驚きつつそう言った。
斡旋所の書類にかかってる魔法と原理は似たようなものだろう、とは何となくわかったがこうやって使う人は初めてみた。
「仕事間違えたかな」
Vはそう言って苦笑いをするばかり。
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