第9話

「これは人じゃありませんね。ゴブリンでしょう」

 食い荒らされて顔の骨がはみ出ている人型の死骸を見てVはそう判断した。

「指が6本あるし、こういう肌の色はゴブリン特有です」

「ゴブリンって徒党を組むものだろ。なんで一匹だけなんだ」

「仲間から追い出されたはぐれゴブリンとかいますけど、そういうのは痩せてるのが相場ですからね。体格は結構いいから、巣穴を討伐されたとかじゃないですか」


 ゴブリンは巣穴を拠点に徒党を組んで生活する。

 山奥に巣穴を組んでモンスターを餌に暮せばいいのだが、山から降りて人里でそういったことを行うと極めて害悪。

 そういった場合、村を上げての巣穴狩りが行われる。またゴブリンはありふれたモンスターの一つなので冒険者組合としても対策マニュアルを広く交付しており、ハンター上がりの冒険者でもリスクを負わず駆除することができるようになっているのだ。なので初級から上級まで冒険者がよく受ける仕事の一つ。


 そのマニュアルの一つが「まず巣穴の規模と総数を確認すること」「巣穴を駆除する場合、5分の3以上のゴブリンを倒すこと」という物。

 それだけのゴブリンを倒すことでその巣穴は弱体化し、徒党を維持できなくなるのだ。その結果徒党は離散することになり、このようなはぐれゴブリンがでる。

 そのはぐれゴブリンはあまり強くなく、他のモンスターに襲われ死ぬ事も多い。また人里への被害対策としてもそのほうがやりやすいというわけ。

 また人形モンスターであるため、人の感覚として子供や女形などは討伐しづらいということもある。討伐が中途半端に終わってしまいゴブリンを怒らせ逆効果という事例も結構あるのだ。その対策が事前に総数を確認し、最低限の討伐で済ませるというこのマニュアルになる。


「群れがなりたたなくなった結果がこれか。悲しいもんだな」

 ドーリーは自分の身の上を思い出しそんなことを言った。

 Vも似たような感想がないわけではないが、冒険者家業に入りたての頃に捨ててきた。

 が今はパーティーという群れから追い出された身。

 もしかするとこうなったかもしれない未来。

「まぁ埋めてやりましょう。おいといたらまた獣やモンスターがよってきますし、同じような身の上と考えるとゴブリンでもなんだか悲しくなってきました」

「そうしようか。向こうのモンスターはどうする?さばいて食えそうか?毒矢じゃないから問題ないとおもうが」

「あれは毛皮や肉がとれますが、採ったところで荷物になりますからね」

「たしかに」

 二人がそんな会話をしていると、御者がどこかから二人の農夫を連れてきた。

「すいません。近所の者を呼んできました」


 二人は農夫に事情を説明し、この界隈でゴブリン狩りが行われたことを聞いた。

「あの獣は仇討ちなんて律儀な事しないと思いますが、一匹取りそこねましたからまた街道にでるかもしれません。気をつけてください。そのことは周りの人にも伝えておいてください」

「取りそこねたんじゃない。打たなかったんだ。林に人が居るか確認できなかったからな」

 冒険者が誤射をやらかして人を殺す事故は定期的におこる。

「獣の方はおいて行くから、処分するなり毛皮を取るなり好きにやってくれ。代わりと言っちゃなんだがこのゴブリンをどっかに丁重に葬ってくれないか」

「この辺じゃ討伐で死んだゴブリンやモンスターなんかは火葬にして骨を教会の共同墓地にうめてやりますが」

「ならそれに加えてやってくれ。仲間の近くのほうがいいだろう」

 そういう算段を付けて二人はまた馬車の上へ。

 

「本業の人にこういうのはなんだか失礼かもしれませんが、すごいですね。あの距離で二匹を撃ち抜くなんて」

「伊達に傭兵で20年も食っていないさ。このくらいはできなきゃ」

 そうは言うが、腕がいいのは確かだろう。

 そこまで難しい仕事じゃないと言ってもモンスターとたたかう仕事、相棒の腕がいいにこしたことはない。

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