PROLORUE
プロローグ.00
身を焦がす灼熱の日射がゆっくりと時間をかけて地面を焼く。水分のない乾ききった砂の大地は足場の自由を絡めとり、幼い少年と少女の体力を容赦なく奪っていた。
「しっかりしろ、ユアン……」
少年は妹である少女の背中を押した。千鳥足になっている少女は小さな声で頷くものの、その表情は暗い。
一週間以上食べ物を口にしていない。持っていた水はつい先ほど空になったばかりだ。少女、そして少年に体力は残っていない。乾ききった大地は残酷にも少年と少女に「死」を叩きつけている。
「歩け、歩け」
少年は何度も繰り返す。砂の大地に命を削られている感覚がはっきりと感じ取ることができる。
いまにも倒れてしまいそうだ。
いまにも意識を手放してしまいそうだ。
己を、そして妹を律していなければ、きっとここで短い生涯に幕を閉じてしまう。懸命に妹の手を引いて歩く。
ああ、視界が狭くなってる。端から暗闇が手を伸ばしている。光が点滅している。今まで気が付かなかったが、手足の感覚がなくなっている。
「……おにいちゃん、おにいちゃん」
ザク、ザクと砂を踏みしめている足音に紛れて妹のユアンが少年を呼ぶ。少年は擦れた声で「どうした?」と聞くが返事はない。ただ、つないでいる手から少女の力が弱くなっている。
瀕死だ。
死んでしまいそうだ。
それでも歩かなければ、この地獄から抜け出すことができない。――そもそも、地獄に出口はあるのだろうか。幼くしてたくさんの命を刈り取ってきたこの兄妹は、なるべくして地獄に落ちたのではないだろうか。最果てまで続くこの大地に終わりはないのではないか。このまま意識を手放してしまった方が地獄から抜け出せるのではないか。いっそ、ここで死んで――……。
「おにいちゃん」
はたと少年は我に返る。だめだ。だめだだめだ。生きると決めたのだ。妹と生きると決意したのだ。だから逃げ出したのだ。それなのにここで死ぬわけにはいかない!
「がんばろう」
足音よりも小さな声で。精一杯握る手はまったく痛くない。それでも少女だって生きたいのだ。
死んでいられない。二人で、必ず生きて、これでもかというくらい明るい場所で笑ってやるのだ。過去の分まで笑って、幸せに、穏やかに生きるのだ。
だから、歩くことをやめるわけにはいかない。ずっと下を向いていた視線が前を向く。
「一緒にがんばろう」
少年は応え、手を強く強く握る。
視界の奥には砂漠の終わりと、白く霞む巨大な壁を目にして―― 。
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