村へ、そして旅立ち

俺はアイリスに連れられ、彼女が住むという村へ来た。

「ようこそ、ここが私の住む村、ズビアンよ」

成る程。この村はズビアンと言うのか。景色を見渡せば、それは昔、絵本で見たヨーロッパの田舎の如く。昔イギリスに一回だけ旅行に行ったが、建物のスタイルとかはそこで見たのによく似ている。

村にある一軒の民家、そこに俺は案内された。多分、彼女の実家だろう。周りを牧場で囲まれているから、彼女は酪農家の娘と想像できるな。

「たっだいま! 」

アイリスは家のドアを開けた。中には椅子に腰掛けて本を読む父親らしき中年の男性がいた。

「おお、お帰り、アイリス。おや、その東方人の男は一体……」

俺のことか! 彼は明らかに俺に怪しい目を浴びせているぞ。

「彼は平沢裕之助さん。道で行き倒れていたの」

「そうか……。だがお主、何故ここに来たのじゃ?」

男性は聞いてくる。

「あのですね、異なる世界で一度死にまして……。その、生き返ったのです」

俺は説明した。

「何ですと?」

訳分からない顔をして男性は言う。

「本当に彼、そうらしいの。信じて、お願い!」

アイリスが俺をフォローする。

「疑わしいのぉ……。まさかお主、アイリスを狙っているのか?」

あーっ! これは駄目なパターンだ!俺は否定の言葉を述べようとする。が、

「そうよ」

おいっ、アイリス! 何てことを言うんだ!

「おーっ、これは良かった」

男性は俺の方に近付いて来て、握手、更にはハグまでしてきた。

「この娘、三十歳にもなるのに、縁談が全く来なくてなぁ。わしとしても困っていたんじゃ。これは神様が二人を引き合わせたのに違いないのう。さあさあ、これは持参金じゃ、受け取れ」

えっ、ちょっと待った。この娘三十歳だったの? 十五歳くらいだと思ってたのに。

男性は袋一杯の金貨を俺に手渡し、更に「お土産」と称してチーズ、ソーセージを手渡した。俺は袋にそれを入れた。

「あら、この袋、全然大きくならないわね。どこで買ったの?」

アイリスが袋を興味津々に見つめる。

「どこでも売ってないよ」

とだけ言っておいた。

「不思議ね……」

とアイリスは言う。

「な、アイリス、良い相手に出会ったな。さ、旅に出たかったのじゃろ?」

男性は話す。

「ええ。彼と一緒に旅立つよ」

アイリスは返した。

「さ、行きなさい。平沢裕之助君よ、娘をよろしく頼むぞ」

男性は俺に握手をして言う。

「分かりました。所で、あなたのお名前は何でしょうか」

俺は返す。

「わしはバイタツ、オーヤマー家の家長じゃ」

「バイタツさんですね、覚えておきます」

「じゃ、二人共元気でな!」

バイタツは言った。俺とアイリスは家から、村から出て、旅を始める事にした。

「これで良かったの?」

俺は聞く。

「広い世界が見たかったから」

アイリスは言う。

「しかし、三十歳だっただなんて……」

俺が言うと、

「黙れ」

と、アイリスは俺の頭を軽くげんこつした。

「ここからもう少し先行くと、レナウンという街があるわ。あそこで武器とか、防具とか揃うから行きましょ」

アイリスは前の方向を指さして言った。

「その間はどうすれば良いんだ?」

俺は聞く。

「その間は、私があなたを守るから。安心して」

アイリスは言った。俺とアイリスの旅が、正しく幕を開けたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

即興! その場のノリで異世界を冒険!! 阿部善 @Zen_ABE

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ