俺は落ちた。落ちて、襲われて、救われた
俺は目を覚ました。目を覚まし、起き上がった。尻の辺りに、尻餅をついたような痛さが少しあるが、不思議と全身に来る痛みは無い。俺の右手には、神から貰った袋以外にも、もう一つ何か別の物が。紙だ。紙には文字が書いていた。俺はその文字を読む。
「君がこの世界での生活に困らないように、この世界の言語と文字が第一言語になるように頭のOSを書き換えておいたよ。それじゃあエンジョイ! ニューワールドライフ!」
クッソ、あの神め。俺をとことん馬鹿にしやがって。俺が立っている場所は草原だった。近くに人のいる気配は無く、不思議と静かであった。
「はあ、誰かいないかな。誰か、誰か……」
神から貰った袋を腰からぶら下げ、俺は歩いた。どこに人がいるか、見当も付かぬ。ただ歩いて、人を探すのみ……
「うわっ、何だこれは!」
俺に大きめのネズミのような生き物が襲いかかってきた。俺はなすすべも無く、そいつに押し倒され、爪で引っ掻き回される。
「こいつ、こいつ、あっち行け、おい! おい!」
俺は必死の抵抗を試みた。しかし無駄だった。こいつは俺の身体から離れようとしない。俺は黙ってこいつに殺されるのを待つしか無いのか? 嫌だ、そんな事は……。畜生、何て世界に俺を生き返らせたんだ、神め! どう考えても地獄だろ、こんな世界!
そんな時、「キーン」という音と共に、閃光が!次の瞬間、そいつは跡形も無く消えていた。動物が跡形も無く消える事なんて、有り得るのか? 俺は疑問に思ったが、まあいい。しかし見上げると、そこには剣が! そして、若い女性が俺を見下ろしている。
「うわあ、助けてくれ! 助けてくれ! 頼む。俺は無一文だから、奪っても何にもならないからな。なあ、だから……」
「ちょっと、助けて貰ってその態度? 失礼しちゃうね」
女性は呆れた声で言う。
「た、助けてくれたのか? 襲ったのじゃ無くて」
俺は聞く。
「襲う訳無いじゃん。さあ、立ち上がって」
彼女は剣を引っ込め、俺に立ち上がるように促す。俺は立ち上がった。金髪の女性がそこにいた。
「あ、ありがとう……。悪かった、疑って」
俺は彼女に感謝と謝罪の言葉を述べる。
「まぁまぁ、あれじゃあ襲われたと思っても無理が無いかな。所で君、黄色い肌をしているね。もしかして、東方人?」
「東方人? 何それ」
「黄色い肌をしている、東方の国々を構成している人々の事を指すのよ」
なるほど……。この世界にも『人種』という概念はあるのかも知れない。
「では、君達は何と言う人種なのだ?」
俺は聞く。
「私達は西方人。白い肌をした民よ。他にも、黒い肌をした民、南方人がいるわ」
なるほど。西方人とは白人、南方人とは黒人の事だろう。この世界にはその三つで割りきれない人種はいるのか、気になるのだが、ここでは控えておくか。
「それで、あなたの名前は何て言うの?」
彼女は聞いてくる。
「そういう君の名前は、何なのか?」
「私はアイリスよ。あなたは?」
「ああ、俺か。俺の名前は平沢裕之助と言う」
「フルネームなの?」
「ああ、そうだ。フルネームだ」
「ほぉ……。名前からして、桜花王国の人かしら?」
「桜花王国? どこだそこは」
「東方の島国よ。太陽の巫女が代々統治する国だわ」
訳分からなくなってきたな。俺の名前が桜花王国の人間、という事は、この世界には日本によく似た文化を持つ国があるという事なのだろうか。
「では、ここは何と言う国だ?」
俺は聞く。
「ここはアルビオン王国。西方の島国よ。所で、君は知識が無いようだけど、もしかして記憶喪失?」
アイリスは聞いてくる。
「いや、決してそう言う訳じゃないんだ。何と言うか、異なる世界から生き返った身だから……」
俺は彼女に説明をした。
「な、何だって!」
アイリスの顔は引きつっていた。
「そんなに驚く事か?」
「ま、まあ良いから、私の村に連れて行ってあげる。そこで話をたっぷり聞かせてもらって良いかな」
「ま、まあ良いが……」
そうして、俺は彼女の歩く方向へとついて行く事になった。彼女の村へ行きに。恐らく、変な事をされる事は無いだろうが、果たして……
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