即興! その場のノリで異世界を冒険!!

阿部善

俺は死んだ。死んで、転生したらしい

 目が覚めた。一時間前、二時間前に何があったのか、すっかり忘れている。思い出せ、思い出せと思っても、思い出せない。微かな記憶の中に、駅の改札を通る場面が見られるが、果たしてそれは何なのだろう。

「あ、やっと目が覚めた」

 俺の目の前にはローブを身にまとった金髪のロングヘアの女性が俺を覗いていた。「さ、立ち上がって」と女性に言われたから、仕方なく立ち上がる。そこはどうやら雲の上。昔絵本で見たような、天国の光景が目の前に広がっていた。

「あの、あなたは一体?」

 不審に思った俺は聞いてみた。

「えーっ? 知らないの?」

 知るわけ無いだろ馬鹿が、なんて風に罵詈雑言を吐いてやりたい所だが、それを堪えて俺は丁寧に聞く。「いや、初対面ですから。早く教えてくださらないと困りますよ」と。

「えーっとね、私は神よ、神。ヤハウェ、イエス、アッラーとか、様々な名前で呼ばれているわね」

 この女が神? 全くイメージと違った。俺は「あの、神って男性の外見をしているのでは」と聞く。

「嫌だなー。私が男の見た目だなんて誰が言ったの? 人間が勝手につけたイメージよ、もう、参っちゃうなあ」

 神は困り果てた様子だった。「すみません」と俺は言う。

「まあ良いよ。神だからって、緊張しないで、気軽に、ため口で話してね」

 そんな事言われると困るのはこっちの方なのだが、まあいい。「分かったよ、神」と俺は言った。

「OK、OK。でね、私からは君に話したい、重要な話があるのよ」

「何それ」

「ええっとね、お前はもう、死んでいる……」

「ふざけないでよ」

「ハッハッハ、テヘッ。まあ、でも、話をしてあげようか。君はさっき、電車に轢かれて死んじゃったんだよ」

 軽快なノリで深刻な話をする神。その話を聞いて、俺の背中に戦慄が走った。

「死んじゃったって、どういう事だよ! 」

「あのねぇ。私は全人類の生死を司る役目を果たしているんだけど、それがだね……。うっかり予定に無かった君を殺しちゃったんだ。許してちょんまげ」

 何が『うっかり』なんだ! そんなノリで人を殺しやがって。俺は怒りの余り、神のローブを掴んで、「ふざけるのもいい加減にしろ、このゴミ野郎! 」と怒鳴りつけた。

「あっ、神に向かってゴミ野郎なんて」

 小学生のような言い方で、神は言う。

「じゃあ何だよ、お前は! 」

 俺は神を更に怒鳴りつけた。

「だって、ゴミ『野郎』だなんて。私は男も女も無い、男女を超越した存在だから『野郎』じゃないっ! ゴミクズとでも呼びなさい! 」

 何だこの理屈。呆れて何も物が言えない。「死ね、死ね、このゴミクズ」と、俺は言う。

「まあまあ怒らないで。うっかり殺しちゃったから、君を生き返らせてあげようと思うの。そうじゃなきゃ、ここには呼んでないよ」

 神は言う。俺は神のローブから手を離して「本当か? 」と、半信半疑で聞く。

「うん。本当だよ。でも、元の世界にそっくりそのまま返すってのは、神憲法九条に反しているから、無理になるねぇ」

 何なんだよ、それ。「無理なのか、俺は元いた世界に戻りたいんだ」と俺は訴える。

「無理なものは無理だよ」

 神は言う。

「じゃあ、どういう風に生き返らすのか? 」

 俺は聞く。「それは、君がいた世界とは全く別の世界になるねぇ」と神は語る。「全く別の世界? 」と俺は聞く。

「うん。全く別の世界。魔法や、魔物のいる、君達の世界でいう『ファンタジー』の世界になるね」

 神は言う。「それは、具体的にどんな風な……」と俺は聞く。

「ま、それは生き返れば分かるよ。そんな事より、私からのお詫びよ。これを受け取って」

 神は俺に、小さな、布製の粗末な袋を渡した。

「何この貧相な袋……」

 俺は正直に見た感想を言った。

「貧相とは人聞きが悪いなぁ。この袋はね、どんなに大きな物でも、どんなに重い物でも入って、しかも大きさも重さも全く変わらない、優れ物! 大事に使ってね。絶対に役に立つから」

 神は言う。「本当? 」と、俺は疑いの目を向ける。

「本当だよ。嘘だと思うなら、試してみてよ。それじゃあ、グッドラック! 」

 神が言うと、俺の立っている足場に穴が開いた。

「う、うわああああ」

 俺は急転直下していく。何が起こったのか、よく分からぬまま。俺はどうなってしまうのか……。不安以外の感情しか頭の中には無い。これから、これから本当にどうすれば良いのか。頭の中は真っ白だ――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る