神様と名乗る青年

「さて鬼が出るか蛇が出るか、取り敢えず待つとしますかー」


そう言って読は座り込み今まで読んできた異世界転生系や異世界転移系の小説の内容を思い出し始めた。


主人公が無双するもの、主人公が過酷な状況から成りあがっていくというもの、はたまたハーレムを形成するもの。そのどれもがありえるそれが異世界だと思う。現実ではとてつもなく困難なことも異世界では案外簡単にできてしまったりする、それが異世界を題材にした小説の魅力の一つだ。なぜかは知らないが読はこの空間を見た時から、自分が小説の中で描かれているような不思議な体験ができると信じていた。


いざ不思議な体験ができる状況になっても、無知ゆえにそれが台無しになってしまう可能性がある。だからこそ今色々な小説の内容を思い返している。誰の言葉かは忘れたが「人間が想像できることは人間が必ず実現可能なことだ」という言葉がある。この言葉とは少し違うが異世界系の小説を書いた作者たちが思いついた主人公たちの状況はすべて、自分がその状況に置かれる可能性があるそう読は思っているのだ。




何分か経った後その人物はやってきた。




「やあお待たせ、読くん」


聞こえてくる声に反応し振り返ると、青年が無邪気な笑みを顔に浮かべながら立っていた。




「お、おう。あ、初めまして、何か自分に御用でしょうか?」


慌てて返事を返すが敬語でなければまずいかもと思い、慌てて姿勢を正し敬語でしゃべり始める。


この青年は一体何者でどのような人物なのかがわからない今、少しでも気に障ることがあってはいけないのだ。しかしそれはだれが見ても無理している様子であり、あまり誤魔化ごまかせてはいなかった。




「ふふ無理しないで普段の口調でしゃべりなよ、別に怒ったりしないからさ」




(思ったより礼儀作法にうるさい人じゃないみたいで良かった、まずはこの人が一体誰なのか確認しなきゃな)




最初のミスがそこまで大きな問題にならなかったことに安堵しつつも、頭の中で考えをめぐらす読。




「わかったじゃあ普段の口調で喋しゃべるよ。君は一体誰でここはどこなんだ?」


仏頂面が解け普段の読の表情に戻り、疑問に思っていたことを青年に聞く。




「僕は神様、ここは僕の仕事部屋かな」


普通であったら頭のおかしい人の戯言と思われる発言も、この青年が言うとなぜか説得力を帯びた。




「そうか、で俺はどうして君の仕事部屋に迷い込んだんだ?」




「あれ?あんまり動揺してないね。みんな驚いたり嘘つくなって言って僕を楽しませてくれるけど、君は冷静みたいだ」




「動揺していないのを見抜いたのは、神様の能力か?」




「大正解!なかなかの優等生みたいだ、そんな君にもっと良い事を教えてあげるよ!君にはこれから日本と違って命の危険がすぐそばにある異世界に転移してもらう」




そこで会話は途切れ少しの間静寂があたりに訪れた。




「あはは、さすがの読くんもいざ異世界転移と言われるとびっくりしちゃった?」


青年は読の顔を笑みを浮かべながらのぞき込む。子供がいたずらをするときのようなそんな笑みだ。


そんな青年とは異なり読は見るからに心ここにあらずといった様子で、ぽつんと立っていた。




そう言われ思考の世界から帰ってくると、目の前に青年の顔があり驚いて後ろに仰け反ってしまう。態勢を元に戻そうとするが受けた衝撃が強かったせいか、腰を抜かしたように地面に座り込む。そうして座り込んだ際に閉じた瞼を開けるとそこには先程の真っ白い部屋とは程遠い、生命の豊かさを感じるほどの壮大な森が広がっていた。




「は?」


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